BABYMETALとさくら学院に出会った

いろんなテーマで、BABYMETALとさくら学院への愛を語ります。

さくら学院のこと。④ ~さくら学院祭☆2019~

「2010年春に開校し、『夢に向かって』の1曲をもって初お披露目させて頂いたのが、TIFのステージ。そのステージを終えて、それぞれメンバーの個性を発揮するステージとして、通常の学校行事に沿って創ったのが「学院祭」のコンセプトになります。ライブや寸劇という基本構成はこの頃から変わってないですね。」

【出典:OVERTURE 020(徳間書店)】

 

これは9月に出版された雑誌OVERTUREの連載企画「SAKURA GAKUIN LIBRARY」で "職員室" が学院祭について語っている言葉です。さくら学院として初めての単独イベントであった学院祭は、初期の段階からバラエティに富んだ内容の成立を目指していた事が分かります。そして、楽曲のパフォーマンスだけに留まらず寸劇やトークなどでも自らが主体となって自分たちの個性を魅せる、観に来てくれた人たちを楽しませる、そんなチャレンジを続ける生徒達の姿は、2010年度から現在に至るまで数々のドラマを生んできました。

 

さくら学院祭☆2019は10月19日(土)・20日(日)の2日間にわたって、KAAT=神奈川芸術劇場で行われました。僕がさくら学院をリアルタイムで追いかけ始めたのはちょうど2017年度の学院祭が終わった頃。当時まだ父兄になっていなかった僕のTLに突然踊った「パンプキンは黙ってて!」という言葉は強烈な印象を残しました。それからずっと "そのシーン" を観たかった僕は、年が明けて2月にリリースされた映像作品を観て、サクラデミー賞についてのエントリを書いています。

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 さくら学院祭☆2019はこの2017年度以来の2日間そしてKAATでの開催ということで、公演が決まってからずっと楽しみで仕方がありませんでした。10月19日は現地で、20日の公演はライブビューイング(22日開催)で観た学院祭を、今回は時系列のレポートではなく、寸劇・サクラデミー女優賞・パフォーマンス・@onefiveというそれぞれの場面で分けて簡単に振り返ってみたいと思います。f:id:poka-raposa:20191027213604j:plain

 

◆寸劇 ~積極的に壊すということ ~

2018年度の学院祭の寸劇「時をかける新谷」は、観ている全ての人の記憶に残る、まさに名作と呼べる作品でした。迫真の演技、独唱、整合性を保つにはミスが許されない難しい台本。そして何よりもそれをたった1回きりの本番でやり切った演者の努力と集中力。間違いなく、長いさくら学院祭史の中でも特別な瞬間として刻まれた場面だったと思います。僕は2019年度が始まってからずっと「今年の寸劇はどうなるんだろう?」ということが気になっていました。17年度と18年度にはメンバー間(なかんずくその当時の中3)の心の機微をテーマとして掬い取り感動的な物語に昇華させた森先生が今年度はどんな本を書くのか、興味がありました。実際にどれくらいの時期から台本が書き始められるのかは分かりませんが、4月~5月には森先生が寸劇について不安がっている姿も見られました。

 

夏を過ぎた頃になっても、ストーリーなどは全く予想がつかなかったのですが、前年度とは趣向、或いは「形」をがらりと変えてくるのではないか、と思っていました。 

 森萌々穂さんがFRESHで19年度生徒会人事を寸劇のテーマにすると森先生に言われて「いいんですよ、今年度はそういうのは」と言い放ったように、今年は予定調和に陥らず、何か積極的に枠組みを壊すようなものになる気がしていました。

 

19日の公演で「歩みの映像」に続いてチャイムの音が鳴った時、まずそれは舞台上に意外な形で表れます。言うまでもなく、暗転中にセットされた高座と、出囃子と共に羽織を着て現れた八木美樹さんです。美樹さんは「皆様、一杯のお運びで、まことに有り難く御礼申し上げます…」と滑らかに前口上を始め、今年は感動は一切なく寸劇というよりコントであるから、肩の力を抜いて観てほしい。仕込みの客かというくらいに笑ってもらって構わない、「なにせ私たちは "サクラ" 学院ですから」と見事なオチを付け、劇場にざわつきが残る中、上手の舞台袖に去って行きます。

 

この予想外の演出はあらかじめ今年の寸劇が去年とは全く異なる方向性のものである事を宣言し、その後に起こるドタバタが「力技」ではないことを観客に理解させるという事があったでしょう。ただしそれは決してハードル下げるという意味合いではなかったように思います。実際にFRESHマンデーの振り返りでも森先生は今回のシナリオの難しさに言及していたし、僕も19日の公演ではお腹を抱えて笑いながらも、これは凄く難しいんじゃないか?と思って観ていました。

 

生徒のみんなが学院祭のリハーサルをしている教室で、森先生の遺体が発見されます。戸惑う生徒たちを率先して森萌々穂さんが事件解決を目論み、そこにハロウィンの仮装をした生徒たちが現れ、幽霊になった森先生も入り乱れてドタバタ劇を巻き起こし…というあらすじ。例年のホームルーム式では森先生が生徒たちを指名する形でシナリオが進みますが、今回は幽霊となってしまった森先生は直接生徒たちと台詞を交わせず(ストーリーの "転" となる野崎結愛さん木村咲愛さんと短く会話する部分のみ)、エアツッコミのような形で狂言回しを務めます。全体で言えば、今年の寸劇は物語性は全くと言って良いほどなく、乱暴な言い方をしてしまえば「Pumpkin Palade」への壮大な曲振りのようなものなのですが、森先生殺人事件というシュールな設定の上に、仮装をした生徒たちの渾身のボケがテンポよく放たれ、舞台上では一時として笑いが途切れる事のない上質のコントが演じられていました。

 

2018年度の寸劇は台本の完成度も素晴らしく、ピンポイントでのシリアスな演技と、ミスをすると辻褄が合わなくなってしまう恐れがあるシナリオを、生徒たちが1回のチャレンジでやり遂げてゆくさまも含めて感動的なドラマを生みました。対して、2019年度の寸劇でフォーカスされたのは、徹底して笑いを取ること。その為に劇団プレステージの向野章太郎さんがゲストの演出家として招かれ、昨年とは全く異なるこだわりを追求した内容となっていました。振り返りで森先生も言っていた通り、普段ナチュラルな演技を指向することが多い生徒たちにとって、初めにコントであることを宣言したうえで、無茶な設定をオーバーな演技でしっかりと笑いに持っていくのは、想像以上に難しかったのではないかと思います。

 

笑いのプロではない彼女たちが今回の学院祭の寸劇で見せた表現者としての矜持は、シンプルに、「やり切る」ということでした。サイコパスな演技で笑いと少しの空恐ろしさを感じさせた萌々穂さんと吉田爽葉香さんはもちろんのこと、例えば戸高美湖さんや野中ここなさんの役どころは仮装による出オチになり兼ねないところを、パワフルな動きと発声を生かして見せ場を作っていました。逆に、他の生徒が全力でボケる中で、顔を隠して静に徹した白鳥沙南さんと佐藤愛桜さんは良いアクセントに。そして20日の寸劇に登場した藤平華乃さん演じる藤畑華乃三郎は、まさにその「やり切る」を体現するようなキャラクターで、考えてみれば生徒会長である華乃さんのパーソナリティが今回の脚本のアイデアの源泉となったのかも知れません。

 

学院祭の寸劇は、生徒たちに近い位置にいる森先生が脚本を書くことでその時の生徒たちのリアルな心情が反映されるのがここ数年の常だったのですが、今年は無理やりドラマを作り出そうとせずに全く異なったチャレンジに振り切ったのは英断だったと思います。固まりつつあった寸劇のイメージを積極的に壊し、2日間で台本を大幅に変えて挑んだ2019年度の寸劇。振り切ることへの確固とした意志と、舞台上で全力を出しやり切る姿勢は、2018年度に劣らず、生徒たちと森先生の表現者としてのプライドを十分に感じさせてくれるものでした。

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(写真引用:音楽ナタリー)

さくら学院祭で新曲や新ユニットお披露目、初のXmasライブ開催を発表(ライブレポート / 写真24枚) - 音楽ナタリー

 

◆サクラデミー女優賞 ~もはや余興ではない~

公演の中盤に設定される「サクラデミー女優賞は誰だ?!」は、森先生曰く学院祭の息抜きの時間であり、「私(森先生)がはしゃぐコーナー」という位置づけです。しかしながら、近年ではこのコーナーは森先生が言う息抜き・余興の時間ではなく、生徒たち自身のアイデアと演技力をぶつけ合う真剣勝負の様相を呈することが多くなってきました。

 

19日に吉田爽葉香さん、森萌々穂さん、野中ここなさん、田中美空さん、佐藤愛桜さん、木村咲愛さんの6人。20日は藤平華乃さん、有友緒心さん、白鳥沙南さん、八木美樹さん、戸高美湖さん、野崎結愛さんの6人がエントリーされた今年のサクラデミー女優賞。まずKAATで実際に観た19日ですが、これがお世辞ではなく本当に全員良かったのです。

 

ストレートでピュア、この年齢でしかできない演技をした咲愛さん。たどたどしさと計算高さのギャップが魅力的だった愛桜さん。素の姿と地続きのようなナチュラルな演技の中に普段なかなか見せない女の子らしさでドキリとさせた美空さん。電光石火で結愛さんとのコンビネーションによる完璧なオチをつけたここなさん。キャラ設定、髪型を使った演出、台詞回しまで、彼女の神髄である「準備」の周到さを見せた爽葉香さん。そして、演じるというよりも "ももえ" である事を貫いた萌々穂さん。拍手の音は拮抗し、最終的には結愛さんのジャッジで爽葉香さんが1日目のサクラデミー女優賞に輝きました。

 

更に、ライブビューイングで鑑賞した20日も前日に負けない素晴らしさでした。自ら先陣を切り、萌々穂さんを完璧に落とした緒心さん。前日のここなさんの演技を伏線に使い、なすおを相手にコミカルでキュートな女子を演じた美樹さん。美湖さんはポテンシャルは高いと思うのですが、いかんせん、なすおとの組み合わせは爆弾過ぎましたね(笑)。相手を「制圧」する術を分かっている恐るべき小学生、結愛さん。ストレートな言葉を詰め込み、想いを伝えたいという気持ちを強く感じさせた沙南さん。まさに彼女にしかできないやり方で、個性的なアプローチをした華乃さん。結果は、緒心さんが昨年の「来年は勝ちます」の宣言どおりの優勝となりました。"ありともり" の近すぎる距離間に男女問わず会場のあちこちから悲鳴が上がっていたのはLVでも伝わってきたし、納得の結果だったと言えるかも知れません。

 

のちの振り返りで森先生が「ガチが過ぎる」と言ったような真剣勝負の場面が、今回も見られました。なかでも、沙南さんが泣き出してしまった、それも「泣きそう…」と言いながら泣いてしまった場面は、胸に迫るものがありました。今年度のサクラデミー女優賞では、裏の設定、自分と相手役との関係性や、演じている人物の性格までもしっかりと考えて本番に挑んだ生徒が多かったように見えました。

 

僕は以前の空気感を直接は知らないのですが、近年のサクラデミー女優賞は即興で瞬発力を競うというよりは、設定を咀嚼し、準備し、時には相手役と打ち合わせをして、「一場面」を演じる総合力を競うコーナーになって来ているように思えます(17年度はそこに日髙さんと新谷さんの天才的なアドリブが加わって、永久保存版とも言える名場面を産み出しました)。

 

美樹さんに、脚本賞を差し上げましょう、と言った森先生の言葉も、それをはっきりと示しているようでした。台詞の演技そのものよりも、プロデュース能力を競うコーナーなのです。それは、みんな真剣になりますよね。さくら学院生たちの表現に対する貪欲さを考えれば、このコーナーは余興というにはチャレンジの価値があり過ぎるものなのだと思います。更に、時間の尊さを誰よりもよく知る彼女たちの頭の中には、過去に繰り広げられた名場面の数々が「基準」としてあるに違いありません。そしてこれは職員室や森先生主導のものではなく、生徒たちの側から生まれた潮流なのだと確信しています。さくら学院のグループとしての着実な成長は、こんなところにも表れているのではないかと思ったりもします。

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(写真引用:音楽ナタリー)

 

 ◆パフォーマンス ~「史上最強」への途上~

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2019年度、さくら学院の9代目生徒会長に就任した華乃さんは、迷いなく「史上最強のさくら学院」という言葉を用いて今年度のさくら学院が目指すものを表していました。5月の時点ではまだそれがどのようなものか僕には分からなかったのですが、夏以降のライブパフォーマンス、そして学院祭のステージを観て、ぼんやりと分かってきた気がしました。

 

 ◇セットリスト

10月19日(土)

1. 目指せ!スーパーレディー ‐2019年度‐

2. Hana*Hana / 3. ベリシュビッッ / 4. Hello! IVY

寸劇「さくら学院のハロウィン殺人事件!?」

5. Pumpkin Parade(w/森ハヤシ・向野章太郎) / 6. Let's Dance

~2019年度サクラデミー女優賞は誰だ?!~

7. キラメキの雫 / 8. #アオハル白書

9. マシュマロ色の君と / 10. Magic Melody

~アンコール~
11. Pinky Promise(@onefive)/ 12. FRIENDS

 

10月20日(日)

1. 目指せ!スーパーレディー ‐2019年度‐

2. 負けるな!青春ヒザコゾウ / 3. FLY AWAY / 4. オトメゴコロ。

寸劇「さくら学院のハロウィン殺人事件!?」

5. Pumpkin Parade(w/森ハヤシ・向野章太郎) / 6. Let's Dance

~2019年度サクラデミー女優賞は誰だ?!~

7. 君に届け / 8. #アオハル白書

9. マシュマロ色の君と / 10. Carry on

~アンコール~
11. Pinky Promise(@onefive)/ 12. 夢に向かってf:id:poka-raposa:20191103211048j:plain

(写真引用:音楽ナタリー)

 

学院祭のセットリストを見ると、寸劇やサクラデミー賞で区切りができることもあり、ブロックが分かりやすく形成されています。今年度の初披露となる「目指せ!スーパーレディ」で幕を開け、TIFやサマーライブで磨いた楽曲で安定のパフォーマンスを魅せた前半。寸劇から2年ぶりの「Pumpkin Palade」、そしてこちらも17年度卒業公演以来の「Let's Dance」を披露した中盤。サクラデミー女優賞を挟み、19日は「キラメキの雫」、20日は「君に届け」と今年度のキーとなりそうな楽曲から、初披露も含め4曲を踊った本編の後半、そしてアンコール。

 

個人的に印象に残ったのは、寸劇終わりの「Pumpkin Palade」に続く「Let's Dance」と、後半に新曲「#アオハル白書」を含む4曲を披露したブロックでした。「Let's Dance」に関してはイントロが鳴り響いた瞬間に思わず「来たか!」と声に出してしまったほど個人的に今年度のパフォーマンスを待望していた楽曲で、TIFでは、Hot Stageの1曲目にやったらみんなぶっ飛ぶと思うんですけどねえ…なんて冗談を言っていたのですが、正直に言ってこのタイミングで観られるとは思っていませんでした。17年度Road To Graduationのドキュメンタリー映像でもこの「Let's Dance」のレッスン風景が大きくフィーチュアされていましたが、在籍した3年間で初めて本気で怒った岡崎百々子さんの姿とともに、「覚悟してほしいんですよ、比べられることを」というダンスの先生の言葉が強く印象に残っています。

 

歌唱パートが無く12人全員が緻密かつ激しい振りを揃えなければならないそのパフォーマンスは、さくら学院の楽曲の中でもスペシャルと言えるものです。それだけ観る側のハードルは上がり、演じる側のプレッシャーも増すことは間違いないと思います。19日、KAATの3階席から観た初日の「Let's Dance」。俯瞰で観ると12人が一つの生き物のように有機的に動き回り、そのまとまりは圧巻でした。トラックにボードヴィル風のシークエンスを加えたり新たな振りが入るなどして、17年度バージョンよりもショーアップされていて、ダンスでは美樹さん美空さん美湖さんの3人がパフォーマンスにエネルギーを与えるように存在感を放っていました。華乃さんはむしろ抑制した凄みを効かせ12人をまとめていた印象でしたが、これはもう一度映像を観ると異なった印象になるかも知れません。

 

そして、今年度の新曲「#アオハル白書」。音源が解禁された当初から生徒たちが言っていた通り、BPMが速く変拍子も入りロックな曲調で今までのさくら学院にはないテイストの楽曲です。そこに短い歌詞を矢継ぎ早に歌いながら踊るのですから、相当に難しいパフォーマンスであることが想像できます。19日の初披露ではイントロから上がる凄まじい歓声が父兄さんたちの期待値の高さを表し、全身を大きく使いながら激しく立ち位置を移動し歌い踊る12人に、僕は目を瞠っていました。ちなみに、KAATの3階席に座ってステージを見下ろした時、まず初めに驚いたのは、エグいまでに細かく貼られた立ち位置を示すビニールテープでした。そして、どの曲でも最高の笑顔で歌いながら、ごく短い時間で縦・横・斜めに滑らか移動してピタリと立ち位置に着くさくら学院のダンスは、至近距離で観る輝きとはまた違った凄みを感じさせるものでした。

 

それにしてもあらためて思い返してみると、学院祭のプログラムの中でも難易度が高いと思われる「Let's Dance」と「#アオハル白書」、その2曲でも "淡々と" パフォーマンスについて行く愛桜さん、美湖さん、咲愛さんの転入生3人は凄いですね。ダンス経験の差による "いびつさ" はさくら学院では決して欠点ではなく、魅力の一つとも言えるものだと思います。でも、学院祭2日間のパフォーマンスで強く印象を残したのは、「未経験だった年少のメンバーが必死に食らいついて行く」というドラマ性ではなく、転入生も含めたチームの平均的レベルがこの時期において極めて高い水準まで達しているということでした。ダンス経験が長いからこそ、さくら学院独特のコレオグラフィーに戸惑いもあったはずの美湖さんはもはやエース級の輝きを放っていたし、愛桜さんと、そしてとりわけ最年少の咲愛さんの努力がどれほどのものであったか。想像すると胸が熱くなります。

 

激しく難易度の高いダンスを魅せてくれた楽曲も印象深かったのですが、僕が個人的に学院祭のクライマックスと感じたのは、本編のラスト2曲です。19日は「マシュマロ色の君と」~「Magic Melody」。20日は「マシュマロ色の君と」~「Carry on」というセットリストでした。これは一見して分かるように、「歌」で勝負をかけてきているパートです。サマーライブで見せた歌への挑戦、偉大だった2018年度のあの「歌」を追いかけ、追い付こうとするこころざしが、学院祭で再び僕の心をつかんで揺さぶってきたのです。

 

「マシュマロ色の君と」でのユニゾンの、遠くまで響き渡らせたいというある種の必死さを感じる声の重なり。中等部3年の4人が担うソロパートも、なかんずく爽葉香さんが歌う「君に 感じてる」は、感動的でした。4人は決して歌姫というタイプのシンガーではないのですが、さくら学院のスタンダードをしっかりと守りながら、今は楽曲に自分たちなりの "心" を注ぎ込んで表現することを見据えて絶え間ない努力をしている。彼女たちの歌を聴きながら、そんな事を考えていました。そして、特別に推しているからという贔屓目があることを差し引いても、僕には爽葉香さんの歌唱力が「特別なもの」の領域に入りかかっているように思えてなりません。

 

華乃さんが目指している「史上最強」とは何だろうと想像した時、学院祭のパフォーマンスから感じ取れたものは、全体のレベルが非常に高い状態でチームとしてとてもコンパクトにまとまっているという事でした。そして視野をより外へ向けることを強く意識してパフォーマンスが出来ている、という事。ダンスも歌も、トリッキーではないけれどとても真っ当で総合力の高いパフォーマンスが、受け手側の求めるものを強く意識しながら舞台上に表現されているように思います。

 

自分(たち)との戦いがまずあり、それが他のグループでは見られないような奥深いドラマを生み、表現にも強く影響する。それはさくら学院の魅力であり特徴であると思っているのですが、今年度は内側に向けるエネルギーの割合が低く、その分パフォーマンスの純度を高めることに早い時期から集中できていたのではないかと想像しています。勿論それは各年度の個性であり、良し悪しではありません。いずれにしても、いま華乃さん始め中3の4人には、2019年度のさくら学院が3月の時点で "どうなっていたいか" がはっきりと見えているはずです。残り5ヶ月でどこまで辿り着くのか。一瞬でも目を離してはいけない、と強く思います。

 

◆@onefive ~僕たちはもう一つの奇跡を見ることができるか~

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それは不思議な時間でした。そのあと舞台上で何が起こるのか、その場にいる多くの人が分かっていながら、声も立てず、身動きもせず、固唾を飲んで見守っている、という様子でした。10月19日、さくら学院祭の一日目。本編が終わりアンコールの拍手の向こうから、薄靄のかかったようなSEが流れ始めます。数日前から何度も繰り返し観た映像のバックトラックである事はすぐに分かりました。舞台照明だけが静かに飛び交い、心地よいエレクトロサウンドがしばらく流れると、スクリーンにあの見覚えのある映像が映し出され、そこで初めてKAATは大きな歓声に包まれました。後姿だけは観たことがあった4人の少女たち。色とりどりの衣装に身を包み舞台上に進み出た彼女たちは、僕たちがまだ聴いたことのない曲で、優雅に滑らかに、美しく踊りました。そして、「ありがとうございました。@onefive(ワンファイブ)でした」と言って深々とお辞儀をしたのでした。

 

@onefiveがSNSでその存在を明らかにし、同時に複数の芸能メディアが「全員15歳の謎の4人組ガールズユニット」として紹介したのは10月15日のことでした。公式YouTubeチャンネルにアップされたティザー映像には多くのヒントが隠されているように見え、様々な角度から検証をしてこの「謎の4人組」がさくら学院中等部3年の4人であることを予想する声が、ファンの間からは上がっていました。

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 そして結果的に、予想されたとおり@onefiveは森萌々穂さん(=MOMO)、有友緒心さん(=GUMI)、藤平華乃さん(=KANO)、吉田爽葉香さん(=SOYO)からなるガールズユニットであることが学院祭初日のアンコールの時間で明らかにされた訳ですが、現時点でのアクションはSNSを中心とした限定的なものとなっています。しかしながら、やはりこのユニットは特に彼女たちを以前から知る者にとっては "語るべきこと" が多すぎるのもまた事実です。

 

まず、事前告知からローンチ後も各種のSNSを上手く使っていて、そのアクションは非常に現代的です。作り込んだオフィシャルショットの質の高さと、くだけたオフショットのバランスの良さ。メンバーが選んだプレイリストや、本人が投稿するテキストで感じさせる親近感。SNSは本格的なプロモーション活動に入る前の段階でもファンの受け皿として機能するし、最も手軽でコストがかからない手段です。Music Video撮影時のオフショットは新たに時間とお金をかける必要も無いし、しかも使い方次第では大きな効果があります。更に、そのMVの別バージョンも近日公開予定とのこと。そのあたりの "一回の現場で複数の露出を可能にする" アイデアが上手く回っているからこそ、2019年度が残り半年を切ったこのタイミングでも、@onefiveが(形の上では)独立して活動できているのでしょう。そう、今の時点では彼女たちは全員まだ「さくら学院の最高学年」であり、卒業へ向けた重要な時期を過ごしているという事は忘れてはいけないと思います。

 

@onefiveに関して、今の活動では本来訴求したいファン層へ向けての認知がなかなか広まらないという見方もありますが、個人的には現時点ではこれで良いと思っています。認知を広げることは重要ですが、せっかくファンを獲得できても今はまだそこにアピールできる素材は限られているし、卒業を控えたさくら学院の活動に加えて高校受験も待っている彼女たちには、なかなか身軽な活動は難しいでしょう。ユニットとしてアミューズのアーティストページに記載がなく、個人のアーティストページにも記載がない現状(2019年11月4日現在)、@onefiveは「プレデビュー」という扱いなのではないかと想像しています。これから3月までの期間で様々なマーケティングもされるでしょうし、本格的なデビューへ向けての検討がされ、卒業後に1アーティストとして本腰を入れた活動が始まるのではないかと考えています。

 

そして、現時点で@onefiveの唯一の作品が、デビューシングルとなる「Pinky Promise」です。これは音源、Music Videoの映像ともによく練られた、上質の表現になっていると思います。

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楽曲はアミューズ所属の辻村有記さんと、エイベックスの新レーベルA.S.A.Bに大橋トリオさんなどと共に立ち上げから参加するThe Charm Parkさんによる共作。歌詞は@onefiveの4人と同じ15歳のSSW、YURAさんによるものです。「Pinky Promise」のお披露目となった学院祭の舞台では、@onefiveのユニット名について、メンバーが15歳であることと共に、YURAさんも含めた5人という意味もあると説明され、このYURAさんが描く歌詞がユニットにとって非常に重要であるという事を窺わせました。 そしてもちろん、コレオグラファーとしてMIKIKO先生の名がしっかりとクレジットされています。

 

曲調はエレクトロポップと言っていいと思うのですが、北欧音楽とエレクトロニカをベースに持つ辻村さん、AORから影響を受けアコースティックと打ち込みを融合した温かみあるサウンドが特徴のCharmさんの2人の音楽性を知ると、この曲が持つ個性がよく理解できるような気がします。そしてMusic Videoの映像は楽曲にもよく合っているし、編集は秀逸と言えるものです。さくら学院の制服とは全く異なるカラフルなファッションに身を包み、ヘアスタイルをストレートで揃え、華やかながらも決して品を失わないメイクを施した@onefiveの4人は、無機質なコンクリートや真っ白な背景、風になびく草木をバックに歩き、戯れ、踊ります。特に凝った演出も無くシンプルな作りではあるのですが、寄りのカットも多く、3分強の時間の中に彼女たちのみずみずしい美しさが凝縮されたような素晴らしい作品です。

 

そしてこれは余談みたいなものになりますが、僕は@onefiveが見せる「仲の良さ」がやっぱり好きです。彼女たちが現時点で持っている武器を考えてみると、15歳にしてダンスや歌、表現の基礎が確たるものであることと、数多くの舞台での経験があること。デビュー作でもかなり贅沢なクリエイター陣を招き、質の高い表現が出来ていること。だと思います。そして表現と直接は関係ないのですが、彼女たちならではもう一つの強みが「仲の良さ」だと思います。

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「Pinky Promise」の MVが10万回再生を突破したあと、スペシャル・エディットの公開を予告して新しいティザー映像がアップロードされました。そこから伝わってくる@onefiveの親密な距離感、その空気はMusic Video本編でも垣間見られるものですが、4人が過ごしてきた時間の長さ、共に経験してきたことの濃密さ、築き上げてきた信頼関係は間違いなく強みだと僕は思っています。それはスキルや容姿、知名度とは別の次元で、観ている人たちに「尊い」と感じさせることが出来るものだからです。仲の良い人たち、お互いがお互いを好きということが隠せずに溢れ出している人たちを見たら、僕はやっぱり幸せを感じてしまいます。無理に演出をする必要は勿論ないんですけど、オフの親密な空気を自然のまま見せる事は、見せ方次第で武器になるのでは、と思ったりもしているのです。…余談ですけどね。

 

さて、限られた活動を見て様々なことに考えを巡らせ、要らぬ心配をしてしまうのは僕が「父兄」である以上仕方がないことなのかな、とも思います。しかし、それでも僕なりに分かっているつもりでいるのですが、本当に重要なのはとにもかくにも@onefiveが動き出した、ということです。動き出したということは、続く可能性があるという事です。そして、動き出したということは、彼女たちがそういう「選択」をした、という事です。これは極めて重要で、もしかするとそれが現時点での全てである、と言い切ってしまっても良いことかも知れません。さくら学院はこれまで本当にたくさんの素晴らしい表現者を輩出してきましたが、卒業生がその後もパーマネントに活動を共にしているのは、BABYMETALだけです。在籍期間中に様々な事を学び、成長する多感な少女たち。さくら学院卒業の時点での未来への「夢」が同級生の4人で揃うことは、きっと、それだけでも奇跡的なことなのだと思うのです。

 

彼女たちはまだ15歳で、無限の選択肢があります。きっと彼女たちもそれを知っています。未来なんて誰にも分からないのですが、少なくとも今の時点では、4人は「一緒に夢をつかみたい」と望み、約束してくれた。そのことに僕はただただありがとうございますとしか言えないし、僕たちが学院祭のアンコールで観た@onefiveのステージは、もう一つの奇跡の始まりになるのかも知れない。可能性はゼロじゃないよね?…などと自分で自分に問いかけながら、今日も「Pinky Promise」のプレイボタンを押しています。

 

◇@onefive official YouTube Channel

@onefive - YouTube

◇「Pinky Promise」配信一覧

Pinky Promise

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