BABYMETALとさくら学院に出会った

いろんなテーマで、BABYMETALとさくら学院への愛を語ります。

いくつかの随想③ ~さくら学院の「役職」についての雑感~

 

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さくら学院の役職について、知らない人に説明をしようとする時、歴の長い父兄さんたちはどのような言葉を用いるでしょうか。僕は少し前、職場の後輩にさくら学院のことを語る機会があり生徒会人事についても短く触れましたが、恐らく彼は「ああ、そういう役割を決めるんだ。そんな部分でもリアルな学校を模しているんだな」くらいにしか捉えなかったかも知れません。もちろんそれはシンプルに的を得ているのですが、さくら学院における役職がグループ内の役割分担に留まらず、彼女たちにとって成長に影響する重要な要素であること、そして役職が基となって創り出されるドラマをこの目で見て知っていると、一言でその本質を説明するのはなかなか難しいという気がします。

 

2018年度の転入式では生徒総会における役職発表で大きなサプライズがありました。約束された人事などないことはよく分かっていたはずなのですが、倉本美津留校長が「トーク委員長… 麻生真彩」と言った時の驚きは、配信の画面を見つめながら思わず「マジかよ!」と叫んでしまう衝撃がありました。中等部3年の新谷ゆづみさん(生徒会長)、麻生真彩さん(トーク委員長)、日髙麻鈴さん(はみだせ!委員長)に与えられた役職と結果した3人の心の動きは、2018年度のさくら学院に幾つものドラマをもたらしたと思います。

 

さて、201956日に文京シビックホールでおこなわれた『さくら学院 2019年度 〜転入式〜』で、僕は初めて現場で実際に転入式を体験する事ができました。そして3人の卒業生を送り出し9人体制となったさくら学院、新たに3人の転入生を迎え入れた2019年度の新生さくら学院のパフォーマンスを経て、やはりこの日もクライマックスだったのは生徒総会での役職発表でした。

 (*以下、写真は「音楽ナタリー」様のレポートよりお借りしています)

 

12人の生徒、森ハヤシ先生に続いてステージに倉本美津留校長が登場し、生徒総会がおこなわれました。役職発表でまず名前を呼ばれたのは「トーク委員長」に任命された森萌々穂さん。続いて有友緒心さんが「はみ出せ!委員長」に。吉田爽葉香さんが「顔笑れ!!委員長」に任命され、「次で最後です」「ええ!? マジですか・・・」という校長と森先生のやり取りの後、さくら学院の「9代目生徒会長」に藤平華乃さんが選出されました。どの役職に任命されるか分からない状態でステージに立つ生徒たちが、短い時間で頭と心を整理し大勢の観客の前で就任を受けたスピーチをする生徒総会のこの時間は、ライブパフォーマンスにも劣らず研ぎ澄まされた「表現」の時間でもあります。

 

この日、最初にスピーチの為にマイクを持ったのは萌々穂さんでした。彼女は左隣の爽葉香さんに「6?ろく??」と声に出さずに確認してから話し始めますが、すぐに「校長先生、なんで萌々穂はトーク委員長なんですか?」と、挨拶を止めて任命の理由を倉本校長に問いただします。校長の最初のリアクションは「自分で考えなさい」でした。この反応は無理もないことだとは思うのですが、萌々穂さんは納得しません。「萌々穂は、プロデュース委員長がやりたかったんです」。ついに観客席に背中を向け、ここから誰もが予想もしなかった萌々穂さんと校長の本気のぶつかり合いが始まるのです。

 

倉本校長から自らが納得できる言葉を聞き出すため、或いは流れ落ちる涙を父兄さんに見られたくなかったこともあったのか、ダンスのフォーメーションを除けばおよそ有り得ない、萌々穂さんが父兄さんに背中を向けたままの状態で、舞台上では真剣なやり取りが続きました。その間およそ5分はあったでしょうか。最終的には校長と森先生から「役職がなくともプロデュース委員長に相応しい働きをしていけば、改めて任命される可能性だってある」という言質を取り、ようやく萌々穂さんはスピーチを再開したのでした。

 

この場面で僕が強く感じたのは萌々穂さんの意志の強さはもちろん、「舞台人としての強さ」でした。彼女はよく “プロ” と呼ばれますが、僕はスキルの部分だけではなく、舞台の上にいる自分を俯瞰で見ることが出来る視点に、彼女のプロフェッショナリズムを感じます。萌々穂さんは、自分は感情的になっていたというニュアンスを後の「FRESHマンデー」で語っていましたが、恐らく彼女はあの場で、舞台上で、ライブビューイングも決定していた公演の最中にあの行動を取ることがどういう「効果」をもたらすか、しっかりと理解していたと思います。さくら学院に転入して以来、数えきれないほど舞台上で真剣勝負をしてきた彼女の気迫とオーラに、さすがの倉本校長もたじろいだ…僕にはあの場面はそんな風に見えました。f:id:poka-raposa:20190526131337j:plain

納得しきれない中でスピーチを終えた萌々穂さんに続き、爽葉香さんがマイクを取ります。爽葉香さんは涙を流す萌々穂さんに(去年、真彩さんにしたように)タオルを渡し、萌々穂さんをなだめ、そして自分の挨拶は少しやりづらそうにしているように見えました。もし、萌々穂さんがすんなりと役職を受け入れ、“波風” を立てなかったとしたら、爽葉香さんは違うことを言っていたかも知れない…と僕は思ったりもします。それでも、地方から通うメンバーを気遣い、下級生には「勇気を与える」、生徒会のメンバーには「支える」という言葉を使って自らの役目を語ったスピーチ。今年度も立派な振る舞いだったと思います。そして、爽葉香さんの凄いところはその後極めて短い時間で自分なりに役職の意味を咀嚼し、すぐに行動に移したところでした。生徒会4人の中で真っ先に日誌を更新し、彼女の誇りの一つでもある日誌の上で、顔笑れ!!委員長と自主的に兼任を決めた教育委員長としての役割を父兄さん達に報告することを宣言したのです。

 

続いて、同じく想定外の役職に戸惑いを見せていた緒心さん。この時には「わたしはちくわを吹いて転入してきたけれど、今ははみ出し切れていない。もっとはみ出して行きたい」と挨拶をしましたが、その後の日誌では「他の人がイメージするわたしからはみ出る」という素晴らしい答えを出していました。このスピーチの後、数分前の萌々穂さんに被せて「なんではみ出せ委員長なんですか!?」と校長に迫ったのは、まさに彼女が求められている役割を演じた場面だったと思います。空気を読み、ユーモアと機転で行動して場を好転させる力は間違いなく緒心さんの才能ですが、はみだせ!委員長という役職に悩みながらも、期待されている「有友緒心像」からはみ出していこうと決意したことは、彼女の賢さと成長への意志を感じさせるものでした。

 

最後に9代目の生徒会長に任命された華乃さんが、所々つっかえながらも「キモチ」のこもった挨拶をしっかりと終え、2019年度生徒会のキックオフとなる生徒総会は終幕となりました。昨年度、今年度とリアルタイムで役職が決まる場面を観て感じたことがあります。一つは、FRESHマンデーで森先生が言っていた「役職を気にし過ぎる必要はない」という前提を持って職員室の先生たちも役職を決めているであろうということ。倉本校長と森先生が萌々穂さんを説得していた時に2人の口から共通して聞かれたのは、「トーク委員長だからと言ってプロデュースをしちゃいけない事は無い」ということでした。これは全くその通りだし、恐らく職員室もそう思っているはずで、大切なのは役職の名前ではなく任命された人が何を為すかということです。役職は、そこから外れる事を "してはいけない" という縛りでは決してない。昨年度と今年度の人事からは、職員室が役職の神聖化を意図的に壊そうとしていることすら感じられました。

 

一方で、生徒たちにとってはそれほど簡単な問題ではない、という事もとても良く分かるのです。8年という歴史の中で、尊敬する偉大な先輩たちが作り上げてきたさくら学院の役職は、現役の生徒たちにとっては憧れや尊敬の的であり、さくら学院生として過ごす中で唯一与えられると言っても良い「トロフィー」であると思います。現役メンバーが過去にとらわれずに個性を爆発させることと、受け継がれてきた伝統を守り更に次世代へバトンを繋ぐこと。さくら学院が挑み続けていることの難しさを顧みると、役職にまつわる割り切れない複雑な感情が理解できてくるような気がします。

 

僕は今年度の爽葉香さんと緒心さんの役職について、個人的になかなか腑に落ちない部分があったのですが、ある時にふと2人がこの役職を「さくら学院のスタンダード」にまで昇華できたらいいな、と思うようになりました。今年度の人事で「顔笑れ!!委員長」と「はみだせ!委員長」が意外だったのは、もともと自分の中では岡崎百々子さんと日髙麻鈴さんの為にバイネームで作られたというイメージが強かったからです。しかし、さくら学院の現在と未来、そして課外活動も含めたメンバーたちの現在と未来を考えた時、この2つの役職は毎年度必要になってくるのかも知れないと思い、それこそトーク委員長のようにスタンダード化させるというミッションは、爽葉香さんと緒心さんにとって挑戦に値するものなのではないか、と考えるようになったのです。勿論この考えはまるっきり間違っているのかも知れませんが、考えた事によって観ている側の僕も納得できるようになったのは事実です。

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 役職はあくまでも役職で、主役はそこで悩んだり転んだりしながら成長をする「人間」そのものである、と思い知らされる瞬間が、僕がさくら学院を追いかけ始めてからの短い期間でも何度もありました。実は13歳や14歳の少女が成長していく方向をコントロールすることが出来る、というのは大人の思い上がりであって、彼女たちがどう成長していくのか予想がつかないからこそさくら学院はこんなにも面白いのだ、と思うこともあります。自分自身がどんな変身をするか自分でも想像できない、と日誌に書いたのは八木美樹さんでしたね。結局、本当は役職は一つの "きっかけ" に過ぎないのだと思います。だけど、さくら学院のみんなが役職を心から大切にしているその真っ直ぐな気持ちをしっかりと受け止めたうえで、1人1人、「個」としての彼女たちを全力で応援するしかない。今年度も実直にそれをやって行こう、と心に決めた2019年5月なのでした。