BABYMETALとさくら学院に出会った

いろんなテーマで、BABYMETALとさくら学院への愛を語ります。

風とタバコと彼女たち ~映画『さよならくちびる』を観て~

さくら学院を卒業した新谷ゆづみさんと日髙麻鈴さんが出演する映画『さよならくちびる』を、公開初日の5月31日に鑑賞しました。2人が映画に出ると知ってから、その演技力の確かさをよく知っていた事もあり待ち切れない思いで数か月の日々を過ごしてきましたが、その期待を上回る素晴らしい演技と、映画自体がとても素敵な作品だったので、非常にざっくりとではありますが感想を書いてみることにしました。内容のネタバレを含みますので未見の方はご注意ください。また、ただでさえ拙い文章力で、書きなれていない映画の事を書きますので、的外れの数々はどうかご容赦ください。

 

gaga.ne.jp

(映画公式サイト)

 

『さよならくちびる』は『害虫』や『黄泉がえり』などを手掛けた塩田明彦氏が原案/監督を務め、主題歌に秦基博さん、挿入歌にあいみょんさんという豪華なミュージシャンが参加した音楽ロードムービーです。主役であるアコースティックデュオ=ハルレオを演じるのは門脇麦さんと小松菜奈さん。2人が実際にギターを弾き歌を唄うライブシーンも大きな話題となりました。3人目の主役とも言えるローディー役に成田凌さん。出演する役者さんは少ないものの、新谷さん日髙さんはポスターでもかなり目立つ場所に名前が載っていて、映画初出演にしては大きな扱いであったことが父兄さんの期待を高めていたと思います。

 

解散を決意したハルレオの2人=ハルとレオと付き人のシマは、東京を出発して7つの街を回る最後のツアーに出ます。旅の車中の様子、各都市でのライブ、そしてハルとレオの出会いからシマとの出会いを経て、それぞれが「抱えるもの」を理由に3人の心がすれ違っていく過程。映画は淡々としたロードムービーであり、過去の回想が入り混じって独特のリズムと空気感を産み出す個性的な作品でした。実力派ミュージシャン2人が提供した楽曲はどれも素晴らしく、特に主題歌の「さよならくちびる」はふと気付くと口ずさんでいるほどすんなりと心に馴染む佳曲です。門脇さんと小松さんの演奏シーンは自然でたどたどしさは一切なく、透明感とけだるさを併せ持つ不思議な魅力のハルレオはまるでそこにいるような存在感を持ってスクリーンの中で歌っていました。

 

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素晴らしく丁寧でエモーショナルなライブの場面と、3人の心の機微を描き出す旅の風景を中心に物語は進みます。そこにタバコ、カレーライス、アナログレコードといった小道具。そして同じく全編を通して強い印象を残した風、風で騒めく木々。そして太陽の光と暗闇に浮かぶライブハウスの対比などがとても印象的にフィーチュアされていました。それらは物語の主役3人の心の動きを表すメタファーのようであり、饒舌な説明を排し映像でそれを提示することで受け手に様々なことを想像させる芯の通った映画的手法に、観ている僕は惹きこまれました。

 

新谷さんと日髙さんはちょっとびっくりするくらいの輝きを持ってスクリーンに現れます。セリフはほとんどありませんが、登場する3つのシーンでの表情、交わす視線、しぐさ。そして口ずさむ歌を通してハルレオへの、或いはお互いのお互いに対する想いを見事に表現し、映画に彩を加えています。2人の役柄は物語の進行に直接関係している訳ではありません。しかしながら、「画」と「音」を主として流れていく物語を邪魔することなく、しかも “流れ” からは独立した輝きを魅せたのは大きなインパクトだったのではないかと思います。もちろん僕は彼女たちに特別な思い入れを持っているので、冷静に見る事は難しいのですが…従前からのファンであるという目線を除いても、2人は作品に一つのアクセントを加える存在として観た人たちの記憶に残ったのではないでしょうか。f:id:poka-raposa:20190602205331j:plain

(写真引用:モデルプレス)

元さくら学院・新谷ゆづみ「さよならくちびる」で映画初出演、女優の道へ 目標は二階堂ふみ「かっこいい女性になりたい」<インタビュー> - モデルプレス

 

時に浮き沈みしながら、さざ波のようなリズムを保ったまま終盤まで流れてゆく物語。そしてラスト近く、それまでは味気の無い高速道路の標識や閑散としたシャッター商店街、異世界への入り口のようなライブハウスの階段だった風景が、歴史を纏ったレンガ作りのホールと、空撮された函館の夜景に変わります。この函館のビジュアルと金森ホールでのライブシーンが、映画のクライマックスです。新谷さんと日髙さんの2人はこの函館の風景に美しく溶け込んでいて、本当に、映画の一部にしっかりとなっていました。それがとても感動的でした。

 

この映画は表面的にはハル、レオ、シマ3人の“恋愛”に対する視点があるのですが、それはいつしか3人とも「自分は何者で、どう生きていくのか」という問いの答えを探し続けている、ということに置き換えられていきます。レオが「わたしは何の為に音楽をやっているのか」とぶちまけるシーン。僕はその答えとして意図的に用意されたのが金森ホールのライブで、意図せずその答えとなったのが日髙さんのアドリブのシーンだったのではないかと思いました。そして映画のラストは、彼らの若さと関係性を考えれば「答えを出した」のではなく「答えを先延ばしにした」のだと思います。彼らの未来は限定されず、3人の物語とともに、あの2人の少女の物語も続いていくのでしょう。

 

新谷さんと日髙さんの演技はもちろん、映画全体に繰り返し観たくなるような様々なものが隠されていそうな『さよならくちびる』。必ずまた観てみたいと思いますし、その時にはまた違ったことを感じるのを楽しみにしています。