BABYMETALとさくら学院に出会った

いろんなテーマで、BABYMETALとさくら学院への愛を語ります。

ふしぎな安心感。 ~Aiko Yamaide LIVE Diary Vol.2~

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真冬にぽっかりと陽気が現れた1227日。

夕方、渋谷道玄坂から路地を入りライブハウスが建ち並ぶ一角、duo music exchangeのエントランス前に僕は立っていました。

 

山出愛子さんのシリーズライブ「Aiko Yamaide Live Diary」は、ソロアーティストとなってこれが3回目の開催。前回819日におこなわれたVol.1に続いてこのシリーズライブを観る事が出来ました。

(8月19日のライブに関するエントリはこちら)

poka-raposa.hatenablog.com

 

前回は100人規模のライブハウスでしたが、今回のduo music exchangeはオールスタンディングならば700人は収容できる規模です(この日は前方に椅子席が設置されていました)。集まった人たちの多くが、長く愛子さんを見守って来たファンの方々だろうと思われました。会場内からは、楽しい音楽の時間への期待。それから、その大きな舞台に立つ彼女を観る事に、少しばかり緊張の空気も感じられるようでした。

 

18:30を少し過ぎたころ。場内が暗くなり、エド・シーランの「Castle On The Hill」に乗って愛子さんが舞台に登場します。上手から現れた愛子さんは、遠慮がちに顔の前で手を合わせるようなしぐさ。舞台中央のキーボードを前にして鍵盤をつま弾き始めると、ギターの太田貴之さんとベースの村田悟郎さん、2人のサポートミュージシャンも舞台に現れ、一曲目「ひらりひらり」へ。柔らかいピアノの音色、包容力を増した歌声。そして、音を奏でる愛子さんが放つ美しさ。ライブが始まる前までは大きく感じていたduoのフロアが、一瞬にして愛子さんの空気に変わります。

 

続けて「ふたりことば」、「スマイル」とオリジナルを歌い、本人も語ったとおり「緊張をほぐした」感があった前半のパート。確かに緊張していたのか少しだけ声が上ずる瞬間もありましたが、「スマイル」の間奏では和やかで弾けるような楽しい演奏もあり、ギターの太田さんとはかなり息が合って来た印象でした。

 

ライブ中盤のカバー曲パートは、歌い終えた後のMCで話したように彼女の故郷である鹿児島出身のミュージシャンに絞った選曲でした。AIさんの「ハピネス」については、舞浜アンフィシアターでおこなわれた『さくら学院祭☆2016』でこの曲を唄い、シンガーソングライターを目指すきっかけになった曲の一つ、との言葉。この演奏は素晴らしかったです。自らが発するポジティブなパワーで、触れる人を元気にする事ができる愛子さん。強く温かいこの曲を奏でている彼女は、本当に女神のように見えました。f:id:poka-raposa:20190112215201j:plain

藤原さくらさんがメロディを手がけ上白石萌音さんが歌った「きみに」は、初期のハナレグミのような軽やかなカントリーフォーク。観客のみなさんの手拍子がパーカッションのように響きます。そして、意外な選曲だった「サイレント・イヴ」(辛島美登里)。静謐なピアノのイントロで会場の空気がまた変わりました。切なく。深く。深く…。クリスマスに纏わる楽曲に、自らに繋がりがあるとはいえ、とても難しいであろうこの曲を選ぶ。それをしっかりと演奏で聴かせきる。松田聖子さんをリスペクトする愛子さんの音楽に対する志、ライブに対する姿勢が垣間見えたようでした。

 

「高校生になって、自分自身はそのままだけれど、周りの人や出会った人のおかげで少し大人になれたと思う」という愛子さんの言葉。そして上地等さんが加わり、2ndシングル「Choice」の中でも最も意欲的なチャレンジだった「Beautiful」が演奏されました。透明感あるメロディにハングル語の響きも心地よく、更に等さんの幽玄なシンセサイザーの音色が楽曲の雰囲気を際立たせます。バックの編成が厚くなり、新たな表現が拓けたような「大切な君へ」。そして本当に気持ちが入っていた「Choice」を経て、ライブ本編は「同じ空の下」でクライマックスに。f:id:poka-raposa:20190113104104j:plain

8月のライブに参加した人たちは、間違いなくこの曲を愛子さんと一緒に歌う事を心から楽しみにしていたことでしょう。離れていても、同じ空の下にいる。また会えるその日まで、楽しみにしてる。それがアーティストとファンの関係性を表しているのだとしたら、その曲をライブの現場で一緒に歌うのは至福、というほかありません。そしてアンコールで起きた「同じ空の下コール」。観客も確かにライブを創っている一部なのだと実感した場面でした。このアンコールを考え実行した人たちは本当に素敵だと思うし、そこに参加できた事を心から嬉しく思います。

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そしてアンコールの一曲目。ライブの序盤からこの “スペシャルなこと” を言いたくて堪らなかった様子を見せていた愛子さんが歌ったのは、さくら学院2016年度の楽曲「アイデンティティ」でした。さくら学院卒業以来、様々な機会で大好きと公言してきたこの曲。曲の半ば、キーボードから離れ立ち上がってマイクを手に歌う姿からは、嘘偽りない「好き」と、この曲への強い想いが伝わって来ました。その好きさ故に気持ちが走ってしまった瞬間も含めて、感動的でした。演奏が終わって、愛子さんが2階席に向けて手を振ったその先。振り返って視線を上に向けてみると、この日会場を訪れていたさくら学院の生徒たちの笑顔が見えました。

 

「次で最後の曲です」

「え~!!」

「曲が終わってから “今のが最後でした” と言われるよりいいでしょ!しょうがないの!ライブは終わるものなの!!」

という、この日の白眉だったMCが飛び出して(もしかするとこのやりとりも今後のライブで定番になるかも?)会場が笑いに包まれた後、舞台に残った愛子さんは独りだけで再び「Choice」を唄いました。「やっぱりこの曲で歌っている内容が、いま一番伝えたいことだから」。ライブの締めくくりにピアノと声だけで奏でられたこの曲は、その言葉のとおり、この日最も高い純度で会場の隅々まで満ちていきました。f:id:poka-raposa:20190114004153j:plainこの日の事を思い出しながら、僕は愛子さんのライブを観て感じた不思議な安心感について考えていました。一つにはもちろん、奏でられた音楽の質があると思います。愛子さんの個性的で美しい声は前回に比べても中音域の豊かさと艶やかさが伸び、ライブハウスを包み込んで、聴く人の気持ちを落ち着かせるような響きがありました。その魅力的な声で歌われるオリジナル曲の内容は、パーソナルなテーマを歌っていても、手管に頼らないシンプルな歌詞。しっかりと他者に目を向ける姿勢によって決して自分の世界に閉じた印象にはならず、特に同世代のファンにとって共感できる、そばにあると安心できる温かい歌なのではないかと想像できます。鋭い事を声高に叫ぶのではなく、辛いときに静かに寄り添う。でも、ある意味で頑固なくらいしっかりと自分を持っている。そうやってフォロワーに道を示す「ゆるやかなオピニオンリーダー」のような存在に、愛子さんはなれる気がしています。

 

音楽的な要素に加えて、例えば、前回のライブでも印象に残った愛子さんの “しっかりした” 部分。それから、歌を聴き言葉を受け取ることで、過去が現在に・今が未来に繋がっていると実感できること。言い換えれば、SNSやメディアなどでの発信も含めて、時間がしっかりと繋がっている感覚。そして、愛子さんが時折見せる “心から” の言葉。しぐさ。舞台上の表現者が心から楽しんでいる姿、リップサービスではなくその場を離れたくないと言ってくれること。共有した時間の中に学びや糧があったとその場で言葉にしてくれること…。それらは16歳という彼女の現在地に拠るものもあるのかも知れませんが、僕に「確かなものを追いかけている」という安心感を与えてくれたように思います。

 

次回のLIVE Diaryは5月19日に同じ渋谷duo music exchangeで2部構成でおこなわれます。間違いなく、愛子さんは更に成長した姿を見せてくれることでしょう。僕は期待ではなくほとんど確信を持ってその日を待つことができます。彼女のソロアーティストとしての物語は、助走を終えて本格的に始まったばかりです。

 

 Aiko Yamaide LIVE Diary Vol.2(2018/12/27 渋谷duo music exchange)セットリスト

1.ひらりひらり
2.ふたりことば
3.スマイル
4.ハピネス(AI)
5.きみに(上白石萌音)
6.サイレント・イヴ(辛島美登里)
7.Beautiful
8.Choice
9.大切な君へ
10.同じ空の下
<アンコール>
11.アイデンティティ(さくら学院)
12.Choice(ソロ)f:id:poka-raposa:20190113111159j:plain

 

YUIMETALのこと。2018年のBABYMETALのこと。(後編)

 YUIMETALについて、そして2018年のBABYMETALについて自分なりの理解を書き留めておこう、と思い書き始めましたが、2018年内に完成させることが出来ませんでした。

 

この後編ではMETAL RESISTANCE EPISODE Ⅶ、そして2018年のBABYMETALについて書いてみたいと思います。

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METAL RESISTANCE EPISODE Ⅶについて

 

METAL RESISTANCE EPISODEⅦ(MREⅦ)は、のちにBABYMETALの物語を振り返った時には間違いなく「変革の時期」として記されるものだろうと思うのですが、難しいのはこのタイミングでBABYMETALチームにとって想定外だった大きな出来事が立て続けに起こったことです。2018年1月には神バンドの中心的な存在であった藤岡幹大さんが急逝し、そして前年12月から継続するYUIMETALの不在がありました。こうした、グループの根幹を揺るがす程の出来事は当然パフォーマンスの演出などにも影響を及ぼしていると考えられ、そのために2018年半ばあたりまでは、このMREⅦで起こっていることが計画通りなのかイレギュラーなのかが分からなくなる事が度々ありました。

 

僕は、5月に初めてMREⅦの演出と4人体制(SU-METAL、MOAMETAL、ダンサー2人)のパフォーマンスを観た時には、これはイレギュラーであり “苦肉の策” をとったのだと思いました。5月8日、ワールドツアーのスタートとなるミズーリ州カンザスシティでの公演。まずTwitterのTLに「ステージ上に4人いる」「YUIMETALがいない」「SU、MOAとあと2人、見た事ない人がいる」という情報が流れました。追ってすぐにファンカムの映像を目にした僕が感じたのは、MREⅦでのBABYMETALはそれまでのBABYMETAL像を積極的に破壊しているということでした。

 

この時点では多くのメイト達から痛烈なブーイングを浴びたメイクや衣装は、BABYMETALが表現してきたカワイイ(Kawaii)の要素を排除し、過去のBABYMETALに慣れている人間に強い違和感を残しました。当時、僕はこれをYUIMETAL不在を逆手に取った演出と考え、敢えて今までとは全く異なる姿を見せる事により、「現状はイレギュラーなんだよ」というメッセージをBABYMETALサイドが発信しているのだと思っていました。f:id:poka-raposa:20190103174703j:plain

 5月8日の時点での僕の考えはこんな感じでした。

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 藤岡さんのこと。そしてYUIMETAL欠場の衝撃が大きかったため、その状況から引っ張り出されたアイデアがMREⅦの骨格なのではないかと考えていました。しかし、アメリカツアーの様子が徐々に分かってくるにつれ、その印象は変化していきました。前編にもリンクを貼りましたが、5月15日に投稿したエントリには自分でこう書いています。

エピソード7で起きていることについては様々な人が様々な考察をしています。ツアーの開始から1週間経って少しずつ分かってきた事もある中で結局僕がいま感じているのは、これはBABYMETALのストーリーが予定通り展開されている、それに尽きるのではないかということです。現在のカタチは苦し紛れでもやっつけでもなく、長い時間をかけて検討され、周到に準備されたストーリーが実行されているのではないか。その「背後」に何があるか、それを穿つのはそれこそ詮無きことであるし、恐らく今後も語られることはないでしょう。ただ、5月8日以降、情報の出るタイミングと出処。ステージ上での表現の完成度。そして何よりも、雑音を薙ぎ払うように驚異的なパフォーマンスを続けるパフォーマーたちの姿。そこには迷いや苦悶は感じられず、確信と自信、そして表現の喜びに満ちているように思えます。 

ライブパフォーマンスの映像では決して付け焼刃ではないように見えたし、また同時期に(目立ちはしないもののBABYMETALのアーティスト活動において大きなトピックスであった)グラフィックノベルのプロデューサーがKOBAMETALとの邂逅を語ったというSOUNDCLOUDの翻訳記事を読んだ時にも、MREⅦの根底には元々しっかりとしたコンセプトが存在していたのではないかと思わされました。

KOBAMETALはアミューズからかなり自由を与えられてた 【海外の反応】 - BABYMETALIZE

 

 METAL RESISTANCE EPISODE Ⅶが終結した今あらためて思うのは、2018年にBABYMETALが見せた「表現」それ自体はずっと以前からBABYMETALチームの中に構想があり、MREⅦはそのコンセプトに藤岡さんのことやYUIMETALのことを鑑みてアレンジを加えたものだったのではないか、という事です。DARK SIDEというキーワード、サポートダンサーを加えたTHE CHOSEN SEVEN、「Kawaii Metal」から逸脱した世界観。それらは緻密で周到な準備が為され、同時に瞬発力のある判断でイレギュラーな事態に対応する演出でした。何よりもBABYMETALチームが求めるクオリティをしっかりと保った演者の皆さんのパフォーマンスは、チームの様々な部分に変化はあっても決して揺らいではいない事を示しているように思えました。

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上記は5月20日(日本時間21日)Rock On The Rangeでのパフォーマンスを観た直後にツイートしたものです。この時僕はかなり高い確率でYUIMETALは復帰すると信じていたし、BABYMETALチームもそれを信じていたと今でも思っています。結果としてYUIMETALの復帰は叶わなかったのですが、この時に直感していたこと=MREⅦでBABYMETALが見せてくれた表現はその場凌ぎなどではなく自信と確信に基づいたものである、という考えが変わる事はありません。

 

2018年のBABYMETALについて

 

さて、2018年はBABYMETALにとって激動の1年でした。そしてまた、外的要因に揺さぶられながらも、実は地道に前進した1年でもあったと思います。グラフィックノベルの発表。アパレルブランドの立ち上げ。マネジメント会社の設立。4曲の完全なる新曲を演奏し、2曲は配信ではあるもののシングルとしてリリースされました。その中でも「Starlight」は藤岡幹大さんへのトリビュートである事に疑いはなく、2017年時点ではリリースの予定は無かった楽曲だと思われます。

 

ライブ活動に目を向けてみれば、それまで単独公演をおこなった事が無かったアメリカ南部、なかんずくテキサスやジョージアといったディープサウスでの公演を成功させたこと、Download UKへの参加、そして国内で自身初となる “ホスト” としてのジョイントライブの開催。12月にはJudas Priestのサポートアクトとしてのシンガポール公演、そして初めてのオーストラリア公演。それらを、今まで強く繋がり合っていた仲間を失い、自らが築き上げてきた成功の要素を破壊しながらも、成し遂げたのです。真正面から勝負して。

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失ったものの大きさにばかり気を取られがちですが、こうやって冷静に顧みてみると、得たものも大きかった1年だったことが分かります。間違いなく、BABYMETALは、新たな武器を手に入れたのだと思います。そして傷つきながらも前に進んでいるのだと。

 

2018年のBABYMETALが見せた表現の変化は、以前からBABYMETALを知るファンにとって少なからずショッキングなものでした。藤岡さんの事があり、YUIMETALの事を案じながら過ごした数ヶ月の時間を経て、久しぶりに目の当たりにしたBABYMETALからは、「カワイイ」という要素がごっそりと抜け落ちていた。ショックを受けるのは当然の事です。5月以降よく見かけたのは、マネージメント側の「過干渉」がパフォーマー3人の自由を奪ってきた、という言説でした。個人的には、SNSを解禁して欲しいなどのプライベートOP論は(本人達の希望が確認できない以上は)あくまでも受け手側の願望に過ぎないのであって、論じるのは不毛かと思います。ステージ上に関する事で言えば、表現やパフォーマンスにおいて、3人が握るイニシアチブはBABYMETALとして活動する時間を重ねるごとに大きくなっていったのではないかと思っていて、この2018年のBABYMETALの表現にも、パフォーマーの意思が反映されていると見るのが妥当と僕は考えています。

 

ここからは完全に個人の「思い込み」レベルの話になってしまうのでそのつもりで読み流して頂きたいのですが、僕は2016年頃までのBABYMETALは、やはりまだ「重音部」の延長線上にあったユニットだったのではないか、と思っています。10代半ばの少女たちが、ヘヴィメタルという彼女たちから最も遠い場所にありそうな音楽シーンのど真ん中に殴り込みをかける。奇異なるものという冷たい視線をものともせずに実力を以てそのステージをどんどんと駆け上がっていく様は、エンターテインメントとして上質なだけでなく、さくら学院と同様にパフォーマーの成長過程を観察する事も一つのエキサイティングな楽しみ方だったのではないでしょうか。その成長物語の一つの区切りとなったのは、言うまでもなく2016年9月の東京ドーム公演です。その時点で、実年齢からは想像もできないほどの大きな経験を積んできた3人の少女は、既に一流のアーティストして認められるべき実力と経験値を持っていました。

 

そして、YUIMETALが初めて欠席した2017年12月の『LEGEND S』公演に添えられた「洗礼の儀」というサブタイトルが大きなヒントになるのではないかと考えます。本来ならば当然YUIMETALもステージに立つはずであったこのライブは、SU-METALの生誕の日を祝うものであると同時に、その後のBABYMETALのアートの方向性も示唆したものだったのではないかと思うのです。SU-METALの成人を区切りにBABYMETALは「アーティスト」としてもう一度生まれ変わり、3人のパフォーマーの年齢と経験に相応しいビジュアルに変化すると共にに、これまでとは異なるアートの領域に足を踏み入れる決意である、という事を。

 

METAL RESISTANCE EPISODEⅦはその当時に重なって起きた様々な外的要因も鑑みた表現になっており、「洗礼の儀」以降のBABYMETALがストレートに求めたものではなかった可能性が高い。だとすれば、2019年こそ、今のBABYMETALの真の姿が明らかになる年なのかも知れない、とも考えています。もちろんそれが、僕の予想を完全に覆す「カワイイ」にメーターが振り切った表現になる可能性も決してゼロではないと思っています。もしかすると2018年のBABYMETALがやったことは、ある意味で彼女たちを象徴する価値観であった「ナンジャコリャ」の極北…何が起きても不思議ではない、というイメージを植え付けたことだったのかも知れません。そしてどんな時でもBABYMETALにとって重要なのは前へ進む、その一点なのだと信じています。

twitter.com

 

画像引用:音楽ナタリー

 

YUIMETALのこと。2018年のBABYMETALのこと。(前編)

20181019日夜。

BABYMETALの各種公式アカウントで、「新体制についてのお知らせ」と銘打った報告が投稿され、休養中であったYUIMETALBABYMETALから離脱すること、今後はSU‐METALMOAMETAL中心とした新体制に移行する事が明らかにされました。 

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同時に水野由結名義で所属事務所アミューズのアーティストページに「ファンの皆様へ」という一文が投稿されました。水野由結さん本人が紡いだと思われるその文章は、端正できびきびとしていて、余計な情報を排し感情を抑えながらも真摯であり、僕にとっては自分が常々イメージしていた水野さんの人間性に当てはまる印象のものでした。

 

僕は直前までYUIMETALの復帰については楽観的に考えていましたので、報せを受け取った時に大きなショックを受けたのは間違いなかったのですが、一方でどこか「ああ、やっぱりそうか」と納得してしまった自分もありました。幕張でお会いした方に言われた「(YUIMETALが復帰すると)信じたかった、のかも知れませんね」という言葉が、僕のこの半年間の実際だったような気がします。僕はむりやり楽観的に構えてはいたものの、広島での『LEGEND S』公演をドクターストップというアナウンスで急遽欠席して以来、結局は離脱という決定が為されたのちの水野由結としてのコメントに至るまで、YUIMETALの「姿」や「言葉」が一切リリースされなかったこと。更に不在の明確な発表が5月からの欧米ツアーが開始しても無かったこと。世界中のBABYMETALファンたちが不安に駆られ、焦燥し、要ること要らないことを想像し、疑心暗鬼になっていた半年間でした。

 

昨年12月以来のYUIMETALの不在と結果したチームからの離脱、そして5月のライブ以降で明らかになったBABYMETALとしての「変化」は整理し、分けなくてはならないと考えていて、そしてこれは多くのメイトさんも同様なのではないかと思います。1年に満たない短い期間で立て続け起こった大きな出来事で感情を揺さぶられ続け、冷静にフラットな視点で今のBABYMETALを見ることはなかなか簡単ではありませんが、何年か後の自分のためにも少し文章に残しておきたいと思います。

 

起こったこと

 ■2017年12月2日

12月2日と3日に広島グリーンアリーナで行われる『LEGEND − S − 洗礼の儀 − 』公演にYUIMETALが参加しない事が発表される。理由は体調不良によりドクターストップのため。(Twitter、LINEへの投稿は残っているものの、リンク先のニュースリリースは削除されてるようです)

BABYMETAL on Twitter: "BABYMETAL 広島公演「LEGEND − S − 洗礼の儀 − 」についてのご報告とお詫び
https://t.co/xUiVyY7ZV7

Important Notice about the Hiroshima Performance LEGEND – S – BAPTISM XX –
https://t.co/vdCczh2wc9"

 

■ 2018年1月5日

藤岡幹大氏が逝去。

報告は1月9日夜、本人のTwitterアカウントに投稿された。

 

藤岡幹大(仮) on Twitter: "訃報のお知らせ
ギタリスト藤岡幹大が平成29年12月30日に天体観測中高所から落ち療養の最中、平成30年1月5日夜容態が急変し娘2人に見守られながら享年36歳で永眠いたしました。"

 

藤岡幹大(仮) on Twitter: "ファンの皆様、関係者様、全速力で生きた彼のことを今後も愛して頂けたら幸いです。ありがとうございました。 妻"

 

■2018年2月26日

WORLD TOUR 2018のスケジュールが発表される。

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 ■2018年4月1日

各種SNS公式アカウントにより 「新たなお告げ」としてMETAL RESISTANCE EPISODE Ⅶのティザー映像がリリースされる。

 

 

■2018年4月30日

アメリカにおけるレコードレーベル「BABYMETAL RECORDS」の設立が発表される。

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■2018年5月1日

公式アカウントからMETAL RESISTANCE EPISODE Ⅶの詳細、THE CHOSEN SEVENの内容を示唆する投稿がされる。

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■2018年5月7日

新曲「Distortion」リリース。

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 ■2018年5月8日~5月20日

5月8日のミズーリ州カンザスシティーからBABYMETAL WORLD TOUR 2018 in US がスタート。YUIMETALは不在で、新たな衣装とメイク、2人のダンサーを従えた “DARK SIDE” のパフォーマンスが初めて披露された。f:id:poka-raposa:20181231205225j:plain

画像引用:音楽ナタリー

 ■2018年5月9日

BABYMETAL WORLD TOUR 2018 in JAPANの開催が発表される。

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 ■2018年6月1日~6月9日

ドイツ ニュルンベルク Rock am Ring からBABYMETAL WORLD TOUR 2018 in EUROPEがスタート。メンバー構成、演出等はUSツアーと変わらず。最終日の6月9日はイギリスでのDownload UKに参加。

 

■2018年8月23日

Good Things Festivalへの参加が発表される。オーストラリアでの初めてのライブ。

 

■2018年9月3日

Judas Priestのサポートアクトとしてシンガポールでのライブに参加することが決定。

 

■2018年9月7日

Sabaton、Galactic Empireを迎えて埼玉スーパーアリーナで『DARK NIGHT CARNIVAL』の開催が発表される。

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■2018年10月19日

新曲「Starlight」リリース。YUIMETALの脱退を発表。

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 YUIMETALについて

YUIMETALに関する公式な情報は2017年12月2日『LEGEND − S − 洗礼の儀 − 』への不参加が発表されて以降、2018年10月19日に脱退が明らかにされるまで全くリリースされることはありませんでした。唯一、2018年8月15日にJAPAN TOURのチケット先行発売の際に「YUIMETALの出演は未定となっております」という短いコメントが注意書きに添えられていただけでした。また、公式アカウント以外からの発信としては、5月10日にアメリカのマネジメント会社の広報が「YUIMETALは脱退していない」というコメントを発表。

www.altpress.com

 6月24日に行われたアミューズの株主総会では、質疑応答においてYUIMETALについての質問が多く投げかけられ、畠中達郎社長から「体調不良はあったものの現在は回復している。10月の日本公演は楽しみにしていてほしい」という回答がされていました。

水野由結7カ月休業に質問集中、アミューズ株主総会 - 芸能 : 日刊スポーツ

 

YUIMETALの情報は徹底的に規制され、表に出ないように配慮されているように見えました。BABYMETALチームのこのやり方には当然賛否両論があり、SNS上での反応を見る限り国内外の多くのファンが「否」の立場に立っていると思われました。僕は5月にこのブログ内のエントリで書いたように、BABYMETALが “設定” を大切にし、情報を規制する事には「賛」の立場です。

 2016年9月のこと。 〜「迷信」の力について〜 - BABYMETALとさくら学院に出会った

 

体調不良が事実なら正直にアナウンスすれば良い。それがファンに向けての誠意だった…。その意見は最もであり、僕自身もBABYMETALのやり方がベストだったとは決して思ってはいないのですが、不在の理由を公式に発表すれば今度は病状などにも言及しなければならなくなる。それはYUIMETALではなく「水野由結」のパーソナルな部分に踏み込んで行く事になるので、BABYMETALチームからアナウンスし辛いというのは僕には理解ができます。最初の欠席が2017年12月。それから5か月も経った2018年5月のツアーにおいて「YUIMETALは体調不良のために参加しません」という内容を、BABYMETAL公式アカウントが33万人を超えるフォロワーに向けて発表したら、何が起きたか。運営の不備に目を向けるのであれば、同時にそれと異なるやり方を選んだ場合のリスクも考えるべきだとは思います。

 

YUIMETALとしての情報が徹底的に規制されていた一方、水野由結としての情報に関して箝口令が敷かれていたとは決して思えませんでした。例えば、2018年3月3日にタワレコTVで配信された「南波一海のアイドル三十六房」で当時さくら学院中等部3年であった山出愛子さんが水野由結さんのエピソードを話し、3月14日にはさくら学院公式ブログ内で、水野さんと連絡を取り合ったことを明かしました。これは2017年12月以降、アミューズ側から初めて公式な形で水野さんの近況に触れたリリースとなりました。

気になっていること、ありますか!? | さくら学院オフィシャルブログ「学院日誌」Powered by Ameba

 

また、2018年6月20日にはBABYMETAL公式、さくら学院職員室、山出愛子さんなどがYUIMETAL=水野由結さんの誕生日を祝うツイートをしています。中でも佐藤日向さんは “連絡は取り合えている” という事を明かしており、水野さんについて周辺関係者がことさらデリケートになっている様子は伺えませんでした。

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YUIMETALがBABYMETALを脱退するに至った経緯を考え始めると、そこには必ず「感情」が入り込んでくるし、本人たちの言葉を一切知ることが出来ない以上は多量の「憶測」が入り込んできます。どの視点から見るか、であったり、考える当人の精神状態が大きく影響してきてしまう事も否定できません。100人居ればそこには100通りの考え方が存在し、その全てが間違ってはいないと思うし、一方で全てが正解ではないとも思っています。

 

あくまでも僕個人の考え方であり、それを他人に押し付けるつもりは全くないことを前置いたうえで、僕が今回の経緯について考えて出した結論はこうです。BABYMETALチームは情報を規制する事で「水野由結」を守っていたと思うし、水面下では双方が復帰に向けて出来る限りの事を尽くして来たと思う。結果として水野さんは「YUIMETAL」ではなく「水野由結」を選ぶという答えを出し、チームはそれを尊重した。事の成り行きに悪意を見出そうとすれば幾らでもそう見る事はできるけれど、僕はそうは思っていません。それはもう起こった出来事に対して何を信じるのか、という問題になってきてしまうのですが…。

 

僕は、水野由結さんの19歳の誕生日に、こんなツイートをしました。彼女がどこで何をしているのか分からない。この先がどうなるか分からない。そんな状況で出て来たのはこんな言葉でした。

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シンプルに言えば本当にこれだけの事であり、それは森先生の「(スーパーレディである事のただ一つの条件は)幸せであること」という言葉と同じであり。何かを捨ててでもそれを手に入れたいと望むなら、彼女がそう決めたのなら、それを全力で応援するしかないと強く思うのです。もちろん僕はYUIMETALが居るBABYMETALをもっと観ていたかったけれど、水野由結さんにとってそれが一番の幸せでないのならば、それを無理やり求めるのは僕の望むところではありません。

 

 YUIMETALに対しての想い。それは本当に1人1人のメイトさんで複雑に異なり、デビュー当時から彼女を見ている人たちは、BABYMETALを応援して3年にも満たない僕には想像もできないような重くて深い想いを持っていることでしょう。でも、僕はやはり「今」の彼女たちを過去に閉じ込めたまま自分も足を止めるという事はしたくない。

 

過ぎ去ってしまった最高の時を繰り返し繰り返し愛で、そこに秘められた肉体と知性と技術の融合を探求しながら、今しか観る事のできない今のBABYMETALと水野由結さんを全力で応援したい。これが、現時点での僕の姿勢です。

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さくら学院のこと。② ~『さくら学院祭☆2018』について~

 2018年11月25日(日曜日)、東京国際フォーラム ホールCで『さくら学院祭☆2018』がおこなわれました。今年は例年とは異なって1回限りの公演となりチケット争奪の競争率は高かったのですが、運よく当選することができ初めての学院祭参加となりました。3階席、ステージまで距離はありますが全体を俯瞰しやすい場所です。また、27日(火曜日)には映画館でのライブビューイングがあり、そちらも鑑賞させて頂きました。

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セットリスト 

 

1.目指せ!スーパーレディー -2018年度-

2. ベリシュビッッ

~寸劇~

3. Fairy tale

4. ご機嫌!Mr.トロピカロリー

5.WONDERFUL JOURNEY

6. C'est la vie / 美術部 trico dolls(新谷ゆづみ、森萌々穂、野崎結愛)

7. メロディック・ソルフェージュ

~サクラデミー女優賞は誰だ?!~

8. オトメゴコロ。

9. ハートの地球

10.My Road

<アンコール>

11. あきんど☆魂~ピース de Check! / 購買部(吉田爽葉香、有友緒心)

12.夢に向かって

 

今年も学院祭は「目指せ!スーパーレディ」の最新版からスタートしました。続けてイントロがアレンジされた「ベリシュビッッ」、そして短い転換に続きそのまま寸劇がスタートします。個人的には学院祭のハイライトはこの寸劇でした。『顔笑れ!!FRESH!マンデー』の放送で森ハヤシ先生も匂わせていたし、今回の学院祭ではきっと演技に関する新たなチャレンジがあるのだと思っていました。父兄さん達はもちろん、森先生も認めるように今年度の中3は揃って "演技派" です。恐らく、2018年度だからこそ可能な「演劇」をパフォーマンスの中に 組み込んでくるに違いないと期待していました。そして、実際に国際フォーラムの舞台上で繰り広げられた寸劇は、自分の期待を上回る素晴らしい内容のものでした。

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寸劇の骨格は「タイムリープ」という現象が起こり、同じ内容が2度繰り返され、2度目は少しずつ変化していくという事。そこに2018年度の生徒会人事を巡る生徒たちの心の機微が絡み、複雑な構成と深いテーマが結びついた脚本でした。演劇に関しては素人ながら、ライブパフォーマンスのさなかに短い時間の中でこの内容を演じるのは簡単ではない、という事は容易に想像ができます。特に時間が戻ったあとの後半部分は、原則として前半に見せたお芝居を狂いなく繰り返す必要があり、変化やアドリブが許されるのはタイムリープ主体者である日髙さん・新谷さんのアクションを受けた部分のみ。一度限りの公演でプレッシャーは計り知れなかったでしょうが、生徒の皆さんはとても頑張っていて、荒唐無稽な題材も自然に演じられていました。

 

「主役」であった中等部3年の3人は、難しい脚本をしっかりと成立させるに留まらず、感情を込めた見事な演技で劇を生きたものにしていました。新谷さんの迫真の涙。麻生さんの独唱。日髙さんの存在感。そして難しい構成、重い場面を強く印象に残しつつも、演者の皆さんが楽しそうにお芝居をしていることが全体として爽やかな空気を産み出していました。素直に何度でも観たいと思える素晴らしい劇でした。寸劇のラストから繋がる形で新曲「Fairy tale」が披露され、その後は楽曲のパフォーマンス、新しい部活動=美術部のお披露目、そして6名の選抜メンバーによるさくらデミー女優賞も開催。初めて現地で観る事ができたさくら学院祭は、生徒の皆さんの個性を存分に楽しめる幸せな2時間半の公演でした。今回のエントリではセットリスト順のパフォーマンスではなく、生徒の皆さん一人一人の印象に残った点を思い出しながら学院祭の「感想文」を書きたいと思います。

 

麻生真彩さん(中等部3年/トーク委員長)

学院祭でパフォーマンスにおいて最も活躍したといっても良いのではないでしょうか。僕は今年度のさくら学院のパフォーマンスを9月にライブハウスでのスタンディングで初めて観ました。その時から真彩さんの歌とダンスは強く印象に残っており、それはホールを舞台にしたライブパフォーマンスでも同じでした。真彩さんのパワフルで情感溢れる歌とダンスは昨年度の中3とはまた異なる個性であり、2018年度さくら学院のエネルギッシュなパフォーマンスを引っ張る存在になっているように思えます。そして学院祭を通して真彩さん最大の見せ場は、寸劇の劇中、国際フォーラム ホールCのステージで、独りで「secret base ~君がくれたもの~」(ZONE)を唄ったことでしょう。直前の新谷さんとのやり取りで既にバカになっていた涙腺はこの歌唱シーンに至って更に崩壊し、現地でもライブビューイングでも涙と鼻水を垂れ流しながら、独り唄う真彩さんを食い入るように見つめていました。

 

もう一つとても印象に残ったのは寸劇の冒頭、彼女が始まりの一言を言う場面です。

「・・・テーマソングになればいいなって。」という主語のない唐突な台詞。現地で初めて観た時には音響のミスでアタマ部分が切れたのではないかと思ってしまいました(もしかして森先生、そこまで計算していたでしょうか?)。劇が進み、種明かしの後でその "意味" は分かるのですが、そうするとライブビューイングでは見方が全く変わってきます。最初に違和感を持たせるというインパクト、そして2回目以降には物語全体のキーポイントになるというこの台詞は、実は寸劇の中で最も重要な言葉なのかも知れません。僕はLVでの2度目の観覧の時には、この冒頭場面の真彩さんに集中して観ていました。「ベリシュビッッ」が終わりメンバーが一旦舞台からはけた後、下手の舞台袖から足早に現れる真彩さんと藤平さん。そして舞台中央でその足取りが緩やかになり、ひと呼吸置いて冒頭の台詞です。この言葉が独立したものではなく、本来その「前」にあるはずの場面から繋がっていることを意識しているような真彩さんの豊かな表現力がとても心に残っています。

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新谷ゆづみさん(中等部3年/生徒会長)

  自らが前面に立つよりも、メンバーを足もとから支えるという形で自分らしい生徒会長像を築きつつある新谷さん。寸劇では、兼ねてから演技に定評のあった彼女の真価が発揮されました。マルチな才能を持つ真彩さんと自分自身を比較し、自信を失って「真彩みたいにはできないよ!!」と叫ぶシーンで、その瞳からは大粒の涙が流れます。振り返り映像を観ながら森先生が「すごいなあ…」と呟くのもわかる迫真の演技です。そしてこの瞬間的なインパクトだけではなく全体を通して間違いなく新谷さんは寸劇の中心にいました。個人的な話ですが、生徒の皆さんがトチる前半部分、最初はこれがきっちりとしたお芝居なのかアドリブ中心のコントなのか判断がつかなかったのです。それほどみんな "上手に失敗" していました。でもモニターに映る新谷さんの表情を見て「ああ、これは初めからちゃんとお芝居してるんだ」と確信するわけです。そしてタイムリープという要素が登場した時に色々な事がストンと腑に落ちる。森先生の素晴らしい脚本を、新谷さんの確かな演技が際立たせていました。役になりきって表情や全身を使いお芝居する彼女ですが、囁くような場面でも叫ぶ場面でも言葉の内容がはっきりと聞こえる事が素晴らしいと思います。ほとんど感情を爆発させるような寸劇のピークの場面でも、台詞ははっきりと観ている側に伝わってきました。昨年からずっと思っていることですが、本当に長尺の本格的な演技を観てみたいです。

 

楽曲のパフォーマンスでは、生徒会長としての立ち位置と同じく、自らぐいぐいというよりも周りを引き立たせる役どころが多かったように感じます。しかし新谷さんのダンスはアクションが大きく、関節を曲げる角度がすごくキレイなので(角度にこだわる彼女らしいでしょうか)、もちろん遠目からでもはっきりと分かる存在感を発揮していました。そしてパフォーマンスでの最大の見所は、やはり自身初となる部活動、美術部 trico dolls だったのではないでしょうか。ボブヘアにベレー帽、衣装もばっちりとハマり、マリオネット風のダンスもひときわ美しく映えていました。昨年の学院祭ドキュメンタリーでは「とにかくさくら学院が好きなんですよ」とストレートにさくら学院愛を語っていた新谷さん。生徒会長という立場で逆に難しいことがたくさんあったと思うのですが、 "爆発" という自らが発案した2018年度の個性は、この学院祭で色鮮やかに発揮されていたのではないかと思います。

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日髙麻鈴さん(中等部3年/はみだせ!委員長)

中等部3年生になり、その特異なキャラクターは更にはっきりと確立されてきた感があります。寸劇での超能力者ぶりは、遂に時間を止めるだけでなく戻す事が出来るようになってしまいました。麻鈴さんが持つ不思議な力は、さくら学院の舞台上では物語が別の局面へと移るスイッチであり、観る者に安心感を与える落としどころのようなものでもあります。麻鈴さんが卒業した後に脚本を書く事への心配を隠さなかった森先生の気持ちも分かる気がします。そして麻鈴さんはキャラクターがトリッキーなだけでなく、表現者としての実力が12人の中で最も堅固である事がこの学院祭ではっきりと分かりました。寸劇の飛び道具的な役どころも、決してお芝居全体が "突拍子ない" ものにならなかったのは、彼女の演技が本当に観客を惹き込む力を持っていたからだと思います。今回たっぷりと麻鈴さんのお芝居を観て、台詞の間の取り方が凄く上手だなと思いました。後半部分、麻鈴さんは(新谷さんと共に)既に一度展開されたストーリーに強引に「割り込む」形での狂言回しのような役割を担うのですが、流れを滞らせずしかも雑にならない立ち回りを見事に演じていました。

 

そして麻鈴さんは間違いなく真彩さんと共に2018年度のパフォーマンスの中心を担っています。ダンスでは、決して大きくはない身体ながらも力強さという意味ではメンバーの中でも随一だし、アップで観れば表情や指先の表現は驚くほど繊細で、まさにアーティスト。歌も安定感抜群で、ソロパートでは真彩さんの情感とは異なる "世界" を映し出します。はみだせ!委員長という立場で思い切りはみ出した個性を発揮している麻鈴さんが、実はパフォーマンス面ではその堅固なスキルで足下を支えているという事は実際にライブを観るとよく分かります。そしてそれはそのまま、今年度のさくら学院のグループとしての底力なのだとも思うのです。

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有友緒心さん(中等部2年)

ぱっつん娘からすっかりキレイなお姉さんになった感があります。ありともさんは公開授業などで近くに見る機会も多く、本当にお美しくなられているなあと思っていたのですが、昨年の学院祭の映像を観ていても、一年で雰囲気が随分と変わった気がします。きりっとした一筆書きのような美しさのありともさんです。とはいえ、サクラデミー賞のコーナーでは「なんで(オーディションで)私が選ばれたんだろう」と、さばさばしたキャラクターは相変わらず。楽曲パフォーマンスではその長い手足をしなやかに使い、全体に華やかな表現を加えているように思いました。もちろん、最大の見せ場は「メロディック・ソルフェージュ」で白鳥の湖のメロディに合わせてバレエを踊るシーン。9月のスタンディングに続き観る事ができたのは2度目だったのですが、やはりため息が出るほど美しいです。

 

そして、パフォーマンスでも寸劇でも、ありともさんはチームに落ち着きを与えるような存在になっていました。特に印象的だったのは、寸劇でのちに森先生が大反省したシーンでしょう。タイムリープ後の後半。真彩さんが「連続テレビ小説 みかん」のタイトルコールをしたあと、本来ならば「そうするとやっぱり主人公は…」という森先生の振りに続いてありともさんがしゃしゃり出てくるのが正しいのですが、後半の森先生はここで「そうするとやっぱり新谷が…」と新谷さんの名前を先に出してしまうんですよね。そうすると、その後のゆづみんつぐみんに繋がらない危険性も出てくるわけですが、ありともさんは新谷さんの名前を出されても落ち着いてしっかりと "しゃしゃり出て" 、お芝居を繋いでいました。彼女の舞台度胸はこれからのRoad To…、そして最高学年になってからは更にチームを支える力になるだろうし、勿論パフォーマンス面でももっと中心的な存在になっていくのだろうなという予感がした学院祭でした。

 

藤平華乃さん(中等部2年/パフォーマンス委員長)

何も意識していなくても、気付くと藤平さんを見ている。初めてさくら学院のパフォーマンスを観た時からそう感じていたし、この学院祭でも改めて感じました。やはりダンスでの藤平さんの存在感は際立っています。彼女の体幹の強さは素人目にもはっきりと分かるものですが、そのアスリート的な能力を礎にしてダンスの表現力を磨き上げているのが藤平さんの凄いところだと思います。首を振ったり腕を振ったりするアクションは12人の中でも一番大きいのですが、下半身が全くブレないのでバタついた印象は皆無です。そして難しい体勢や激しいアクションの合間も飛び切りの笑顔は一瞬たりとも崩れず、フロアへのアイコンタクトの回数も多い。映像でも充分に伝わりますが、やはりライブの現場で彼女のパフォーマンスを観るとその凄さはよく分かるなあ、と思いました。この意味においては岡崎百々子さんのパフォーマンスもそうでしたね。

 

今年度の藤平さんは、パフォーマンス委員長として大きな役割を担っていると思われます。それは『顔笑れ!!FRESH!マンデー』の番組内企画に取り上げられた事でも分かるし、学院祭でのさくら学院全体としてのパフォーマンスを観て更に確信が強まりました。ソロの担当などで大きく目立つ場面こそ少なかったものの、転入生たちのダンスの上達や、全員が難易度の高いダンスをしっかりとこなしながらも表情豊かにのびのびと踊っている姿は、彼女がパフォーマンス委員長としてチームにもたらしている影響の大きさを示していたのではないでしょうか。

 

森萌々穂さん(中等部2年)

今回の学院祭のもう一人の主役。新たに創設された美術部の部長であり、生みの親でもあります。ビジュアル的にも洒脱でコンセプトもしっかりしている美術部 trico dollsはまさにもえほさんの為に作られたようなユニットだと思っていたら、ご本人が企画をプレゼンして実現したという素晴らしいストーリー。以前から夢に描いていた、自らが考えたユニットを学院祭の舞台で披露することはもちろん最高に嬉しいには違いありませんが、それ以上にとてつもない緊張感だったのではないでしょうか。いつも飄々としている彼女が、学院祭翌日の『顔笑れ!!FRESH!マンデー』の放送内で「萌々穂、だいじょうぶでしたか?」と尋ねるほど内心では追い込まれていた事を明らかにしていました。ただ、当日のパフォーマンスではそんなことは全く感じさせず、揺るぐことない確実なパフォーマンス力と、いつもの人の惹き付ける笑顔で、本当にいつものもえほさんでした。常に "自分" で変わらない。それは彼女の大きな武器であると思います。もえほさんも含め中等部2年生たちのパフォーマンスにおける安定感は、中3の3人にとって本当に心強いものに違いありません。

 

trico dollsのパフォーマンスは導入部分から凝っていました。暗転後、まずはタキシードで口髭をたくわえトランクを持った麻鈴さん(本人曰く親戚のサム伯父さん)が現れ、トランクの口を開けて指を鳴らすと、モニターにティザー映像が流れます。アトリエにいる3人の少女のシルエット。繰り広げられるドタバタ。BGMは「C'est la vie」のメロディを基にしたものだったような気がします。曲調はちょっと不思議で、バロックポップをダンスミュージック風にアレンジしたような感じ?クリエイターはロヂカを手掛けたEHAMICさんとのことですが、ファンタスティックであたたかみのある曲調がとても印象に残っています。えんじ色のベレー帽に白い生成りのブラウス、サスペンダーにダボっとしたズボンとアーガイルの靴下という衣装が、もえほさんのノーブルな可愛さを親しみやすくアピールしていて、いきいきと踊る彼女はまるで本当に絵画の登場人物のようでした。舞台上でのパフォーマンスだけでなく、さくら学院を客観的な視点でも見る事が出来ているように思えるもえほさんが、この新しい部活動をどう展開させていくのか、これからも興味が尽きません。 

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吉田爽葉香さん(中等部2年/教育委員長) 

藤平さんと同じく2015年転入組である爽葉香さん。今年度、中等部2年で教育委員長に任命されました。年度のスタートの時には、何か特別なことをするわけではなく、まずは自分がさくら学院生としてしっかりと成長する事で結果的に下級生たちへ色々なものを伝えていきたいと語っていました。この学院祭までの間、転入生や下級生たちは爽葉香さんの背中を見て何を感じていたのでしょうか。彼女のパフォーマンスはとにかく「全力」というイメージが強いです。初めてライブを観た時には、あまりにも全力で腕を振っているので肩が外れないかと要らぬ心配をしたほど(笑)。そのダイナミックな動きを可能しているのは彼女の身体の柔らかさですが、更にそこに指先や表情の繊細な表現も加わり、より遠くまで届くパフォーマンスになった感があります。グループの中でも長身であることからフォーメーションの後方部隊に配置されることが多いようでしたが、しっかりと存在感を放っていました。

 

「ご機嫌!Mr.トロピカロリー」が久しぶりにステージで披露されたことは学院祭の大きなトピックスでしたが、その中でも爽葉香さんがメガネをはずして華麗なウォーキングを見せた場面は会場が驚きと歓声に包まれました。僕は「トロピカロリー」が始まった瞬間から、ランウェイの場面は爽葉香さんだろうと確信していたのですが、まさかメガネをはずすアクションは予想しておらず、思わずおぉっと声を出してしまいました。森先生曰くご本人は会場のリアクションに不満だったらしいですが…(笑)。爽葉香さんは寸劇でも見せ場があり、また、学院祭以外のライブでも多くの場合は有友さんと共に購買部での出番があります。ライブの中で目立つ場面は多いように思えます。その一つ一つに全力で臨むことを通じて、彼女が教育委員長として伝えたい事が下級生たちに伝わり、成長に繋がっていく2018年度の過程と完結をしっかり見届けたいと思います。

 

白鳥沙南さん(中等部1年)

 転入式でのビジュアルインパクトがまず凄かった沙南さん。この半年間で、「FRESH」や公開授業などを通じて彼女のキャラクターも分かってきました。学院祭で印象的だったのは、サクラデミー女優賞で先陣を切って挙手をした場面でした。沙南さんには「まずやってみよう」という思い切りの良さがあって、それはハートの強さというよりもとにかく色んなことを経験したいという好奇心に近いものなのではないかと思います。そして、やってみた後にしっかりと反省できるのが彼女の良いところ。さくら学院転入以来、チャレンジと失敗を繰り返してここまで成長してきた事が学院祭のパフォーマンスからも感じられました。ダンス経験がある彼女もさくら学院のダンスは特殊で難しい、特に表情や表現の部分で苦労してきたことを学院日誌などで語っていましたが、学院祭の1曲目「目指せ!スーパーレディー -2018年度-」、個人パートで森先生の言葉をスルーする表情はとても良かったと思います。野中さんというパートナーを得て、Road To…をどのような成長を見せて駆け抜けるのか、目が離せません。

  

野中ここなさん(中等部1年)

衝撃という点では2018年度の学院祭はこの人が全部持って行った感さえあります。サクラデミー賞で「なすお」というクレイジーなキャラクターを創造し、会場はもちろん舞台上をも混乱に陥れた野中ここなさんです。学院祭の本番前にさくら学院職員室から「ついに転入生も殻を破った」というツイートがあったのを覚えているのですが、今思えばあれは野中さんの事だったのかも知れません。僕が思ったのは野中さんはとにかく想像力があるという事と、その想像力から産み出されたキャラクターになりきれる、という事です。デミー賞に関しても突飛なことをやってやろうという意図よりは、なすおというキャラクターが勝手に動き出したという感じでしたもんね。野中さんは転入式の時から、初めて踊る曲なのに表情がとても豊かだなと感じていました。楽曲に独自の解釈を加えたり、楽曲の登場人物になりきるという事が出来ていたのかも知れません。そして衝撃的なコメディエンヌとしての才と共に、誠実で熱い一面も野中さんの特筆すべき個性です。これからも続く沙南さんとのストーリー、そして残り少なくなった転入初年度の時間が感動的なものになる予感がひしひしとします。f:id:poka-raposa:20181208161833j:plain

田中美空さん(小等部6年)

田中美空さんは美しいです。ライブや公開授業で間近に見る彼女の美しさは大げさではなく世界基準だと思うし、内面の純粋さを感じさせる瞳の輝きや、真っ直ぐに通った芯の強さが滲み出る佇まい。見ているとこちらの心が洗われるような、透き通った美しさがあります。学院祭での田中さんは "良い意味で" 目立つ存在ではありませんでした。ダンスはこの半年で更に上達し、全体にしっかりと溶け込むようになりました。ステージを俯瞰する3階席から観ていると、フォーメーションの中にすぐ田中さんを見つける事が出来ない場面が幾つもあったのです。1年前には先輩たちに付いて行くのに必死だった田中さんは、今年の学院祭ではフォーメーションの後方から全体の屋台骨を支える役割を、とても楽しそうに演じていました。表情の柔らかさや表現の豊かさは彼女の中に芽生えつつある自信と余裕を感じさせ、その美しさに高い表現力が加わったら無敵の存在になってしまうのではないかと思うほどです。そして少ないながらも寸劇での「『時をかけるゆづみん』ってのもいいんじゃない!?」という台詞や、ありともさん爽葉香さんと共に3ガールズでのランウェイ、「オトメゴコロ。」での迫力のソロなど、魅せてくれる場面もありました。特に昨年の寸劇と比べると格段にナチュラルになった台詞の発声は印象的です。彼女の表現者としての成長曲線がいま大きな弧を描いているのは間違いなく、今年度のRoad To…で最も注目すべき1人だと思っています。

 

八木美樹さん(小等部6年)

八木さんと田中さんは 2017年度の転入組。そして今年は年下と年上の後輩が一気にできて、色々と難しい立場だった事も少なくなかったのではないでしょうか。でも2人とも自分をしっかり持っているというか、周りに流されない良い意味での頑固さ・マイペースさを持っているので、しっかりと自分に向き合いつつ成長を続けて来たように思います。学院祭での八木さんは、ダンスではもう既に上級生たちと比べても決して遜色なく、パフォーマーとしてしっかりとさくら学院の戦力になっているという印象でした。田中さんと同じく、 "気を遣われる" 立場だった去年から、今年は転入生たちから見れば頼りになる先輩になっているなあ、と。職員室、卒業生、記者の方など近くで見ている人たちも八木さんのパフォーマンス面での成長に賛辞を送っています。そして、八木さんはお芝居もしっかりできるんですよね。まだ演技というには至っていないかも知れませんが、台本をしっかり覚えて淀みなく台詞を発することができ、寸劇で見せたようなコミカルな空気も醸し出せる。演技力の伸びしろはすごくあるんじゃないかと思います。来年度以降また寸劇があるとすれば、更に大きな役どころを演じそうな気もします。どちらかというと控えめな性格の小6の2人ですが、彼女たちの物語はここから本格化するのだと思うとわくわくする気持ちを抑えきれません。

 

野崎結愛さん(小等部5年)

11人の生徒の皆さんを書いてきて、最後に最年少・転入して7か月ほどの野崎結愛さんのことを書こうとしているのですが…。多くの父兄の皆さんに同意して頂けると思っているのですが、野崎さんはスーパーですよね。何と言うか、パフォーマンスの質に言及する以前に、「人から見られるという星の下に生まれた人」って少数ながら存在すると思うのです。彼女はそんな人なんじゃないかなと思います。僕の中では菊地最愛さんに近いような気がします。まだ11歳の野崎さんはこの学院祭で全ての楽曲パフォーマンスはもちろん、寸劇、部活動、サクラデミー女優賞に参加しました。「小っちゃいからという目で見られたくない」。11月15日に職員室が野崎さんのお誕生日を祝うツイートに用いた言葉です。凄いです。見せ場、幾つあったでしょうか?目指せ!での一番長い自己紹介パートの台詞、ベリシュビでの「私らしくていいでしょ?」、寸劇での「はいパパ!」と後半の「絶対ヤダ…」、美術部でのパフォーマンス、デミー賞での演技と最終演技者を決める時の天使っぷり…。ダンスや歌ではまだまだ先輩の背中を追いかけている立場だとしても、彼女には舞台上でスポットライトを浴びるということに対する才能が生まれつき備わっているような華やかさがあります。そして、経験を積んで表現者としてのレベルが上がった先輩達と、彼女のような経験の少ないメンバーが持つ初々しさが舞台上に入り混じることもやはりさくら学院の大きな魅力なのだな、と改めて思ったのでした。いま必死に努力している野崎さんの姿が、紛れもなくさくら学院の未来を創って行くということなのでしょう。 

 

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森ハヤシさん(さくら学院担任)

最後に、普通ならばここはオマケのコーナー、というところなのですが、今回の学院祭ではやはりこの人にも触れない訳にはいかないと思い、森先生です。昨年度の寸劇もとても脚本が良く素敵なストーリーだと思いましたが、今回の「時をかける新谷」はご本人が強めの引き出しを開けたと語ったとおり、気合の入り方が違ったような気がします。それはもちろん新谷さん真彩さん麻鈴さんの演技力へのリスペクトと、自分ができる形で彼女達へのギフトを贈ったという事でもあり、同時に自身の本書きとしてのプライドをぶつけたような、渾身のストーリーになっていました。この寸劇だけでスピンオフ作品が作れないものか…と思ってしまいます。森先生の脚本とは直接関係ない話になってしまいますが、秀逸だったのは劇のラストにそのまま新曲「Fairy tale」が演奏され、「Starting Over 終わりなき世界」という歌詞と物語がぴったりとリンクしたことでした。ある意味で新曲を唄い終える瞬間までが寸劇の劇中と考える事もでき、そうするとこの劇はやはり何かに答えを出す物語ではなく、ここが新たなスタート地点だという事を宣言しているのだ、と想起させるようなエンディングが素晴らしかったです。森先生がこの物語に込めたメッセージの深い部分は、いつかどこかで聞く機会があれば良いなと思っています。

 

それから、多くの父兄さんが気になっていたであろう「結局、後半の "ボール" は当たる・当たらないどっちが正解なの?」問題ですが、個人的にはやはり当たる、が正解だったんだと思います(笑)。麻鈴さんが言ったように前半のホームルームはグダグダだったわけで、前半=敢えて外す→スベる、後半=新谷さんの位置修正で当たる→受ける、というのがキレイな流れだったのかなと…。ただ本番であのボールが当たるのはとても難しいので、外れた場合のシミュレーションもしっかりと準備していたのでしょう。あれがボールではなく金ダライだったら、当たる確率はグンと上がったのでしょうけど…(笑)。

 

 

写真引用:音楽ナタリー

【ライブレポート】さくら学院、中3の絆深まり森萌々穂の夢叶った「さくら学院祭」(写真12枚) - 音楽ナタリー

 

 

Aiko Yamaide LIVE Diary Vol.1

 

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8月19日、山出愛子さんのソロ・ライブ「LIVE Diary Vol.1」の昼公演に行かせて頂きました。7月からスタートした同シリーズライブの第2弾になります。

 

会場の渋谷gee-geは最大でもキャパシティ130人ほどのライブハウス。整理番号が100番に近かった自分はフロア後方で立ち見でしたが、運良く楽屋からステージへの導線に近い位置に立っていたので、行き来する山出さんを至近距離で見ることができました。(卒業写真集のお渡し会には参加していないので)舞台の上以外で初めて近くに見た山出さんは、とにかく小さい!華奢!という印象。いや、身長がという事ではなく(笑)、舞台の上での彼女はやはり表現者としてのオーラを発揮しているんだな、と改めて感じたのでした。


小さなステージの上、サポートギタリストの太田貴之さんが上手・山出さんが下手に置かれたピアノに向かい、ライブがスタートします。一曲目は「ふたりことば」。最初の一音から感じたのは、アルバム音源やさくら学院祭での演奏と比べて柔らかに滑らかになったこと。自身でも「タッチが強い」と言っていたピアノの音もより優しく響き、産まれてから流れた時間の中でこの曲がとても自然に昇華してきた事を伺わせます。2曲目、シングルのタイトル曲ともなった「スマイル」はシンプルな構成で歌詞がストレートに届きます。ギターの太田さんとのインプロビゼーションも楽しく、今後バンド形態などでの演奏も期待してしまいます。

 

「夏らしい曲を唄いたくて」という短めのMCに続いて、「ひまわりの約束」(秦基博)。そして続くaikoさんの「カブトムシ」は、この昼公演の中で個人的に最も印象に残った一曲でした。aikoさんに関してはポップなキャラクターや耳馴染み良い楽曲の裏側に時々ハッとする鋭さを見せるアーティスト、という印象です。「カブトムシ」も決して甘さだけではない難しい歌だと思うのですが、山出さんはオリジナルよりも少しだけテンポを落とし、一言一言を刻み込むようにこのaikoさんの代表曲を見事に唄い上げます。

 

"形"としての完成度も勿論高かったのですが、驚かされたのはその情感の豊かさです。それは瞬間的に凄みさえ感じさせるほどで、これからどんどん拡がっていくであろう山出さんの表現世界の一端を見たような気がしました。続く「ひらり ひらり」では、さくら学院として過ごしていて色々あった去年の夏を思い出します…という「2017年度の夏」を知っていれば自ずと感慨深くなってしまう山出さんの言葉。完成形となり更にクオリティが上がったこの曲を聴いている時も、様々な意味で時間の流れを感じさせられました。

 

 ここで山出さんはピアノから離れ、太田さんのギターのみをバックに「君はロックを聴かない」(あいみょん)、「One more time、One more chance」(山崎まさよし)の2曲を披露。この日選ばれたカバー曲はいずれも簡単なものではなく、表現の幅を広げるチャレンジという意味もあるのかな…などと勝手な推測も。そして太田さんが退場し、本編ラストは山出さん独りで初の自作曲である「大切な君へ」の演奏となりました。「今日のお昼くらいにめぐがツイートして。あの人、宿題の事は何にも言ってこないのに、こういう時ばっかり!(ちょっと間を置いて)…嬉しかった(笑)。これSNSとかに書いちゃダメですよ!めっちゃ(エゴサして)探すからね!!」という微笑ましいMCに続いて、優しさと透明感に溢れた歌声とピアノの音色が満ちていき、ライブ本編は終了となりました。

 

アンコールで再登場した山出さんはまずご自宅の姿見鏡にまつわる小噺を披露し、まあなんでもない話でした、という〆から「なんでもないや」(RADWIMPS)へ。そして最後はBEGINの上地等さんをゲストに迎え、制作途上の新曲が演奏されました。「この曲にはみなさんと一緒に歌うところがあるんです!」と嬉しそうに言って、観客にコーラスパートをレクチャーする山出さん。「2番のサビで歌ってそのあと3回繰り返すけど、声が出てなかったら出るまでやるから!」とこちらとしては嬉しい限りの指示が。ステージ、フロアにいる全員で「また会えるその日まで  楽しみにしてる♪」という歌詞を何度も繰り返し、幸せのうちにライブは終了しました。

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 山出さんをリアルタイムで追いかけ始めて(=自分が本格的に「父兄」になって)まだ1年も経っていないし、ソロライブを観たのはもちろん初めてでしたが、この1時間ほどの時間でもその才能と人間的魅力はしっかりと伝わってきました。まず感じたのは、やはり彼女はしっかりしている、ということ。山出さんは経験を自分の中に引き出しとして備える事ができる。かなり詳細な情報として。そしてその引き出しから必要なものを取り出し、楽曲や舞台上のパフォーマンスに反映するという事ができているような気がします。

 

自作曲を披露するたびに深まっていく表現。その裏に隠れた研鑽と努力。カバー曲に向き合う時の誠実さと楽曲への愛情。唄うということに向かう真摯な姿勢。そういった彼女の「しっかりした」部分に加えて、新曲を巡る観客とのコミュニケーションで見せた天性のフレンドリーさ。愛すべき「押しの強さ」。その絶妙なバランスは間違いなく彼女の魅力の核なのだと思います。更にはTwitterを初めとするSNSツールをとてもうまく活用している山出さんらしさ(新曲に、ファンにはお馴染みの「いつものボーダー」というような歌詞が入っていたり)も感じられるライブでした。

 

さて、僕はLIVE Diaryというネーミングを初めて目にしてとてもいい名前だなあと思ったのですが、実際にライブを観てこれほどぴったりくるとは思ってもみませんでした。楽曲が育っていく過程や、山出さんが自分の中に蓄えている様々な経験が舞台上での表現に反映される実感。小さな現状報告や、SNSでの発信とライブの現場が繋がるリアルタイム感。まさに音楽に彩られたカラフルな「日記」をライブハウスでみんなで眺めているような素敵な1時間でした。この規模、このスタイルがいつまで続くのか分かりませんが…(そして、存外に早く山出さんが次の段階へ到達する予感がひしひしとしていますが)、今はもう少しだけ、この距離感を楽しむことができたらいいな、と思います。

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Aiko Yamaide LIVE Diary Vol.1(昼公演)
8月19日 13:00~ 渋谷gee-ge

1.ふたりことば
2.スマイル
3.ひまわりの約束(秦基博)
4.カブトムシ(aiko)
5.ひらりひらり
6.君はロックを聴かない(あいみょん)
7.One more time、One more chance(山崎まさよし)
8.大切な君へ
EN1.なんでもないや(RADWIMPS)
EN2.新曲

 

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写真引用:Billboard Japan http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/66806/2

 

 

1年。 

f:id:poka-raposa:20180727201919j:plainTwitterアカウントを開設してから1年が経ったみたいです。

 

1年前にアカウントを作ったとき、僕はサマソニを間近に控えて遂にBABYMETALのライブを初めて体験できる、という状況で、とにかくベビメタのことを話せる人が周りにいなくて、そんな人と出会いたくて、幾つかのSNSでBABYMETALに関するアカウントを作ろうかと検討した結果、Twitterに決めたのでした。

 

実はTwitter自体は別のアカウントで2012年くらいからやっていて、ただフォロワー数も二桁くらいで、ここ数年は別のSNSを主に使っていて、当時はTwitterはもう古いと思っていたのです。それがBABYMETALを共通項に繋がる事ができる友達を探そうと思った時、フェイスブックでは専用アカウントが作れない。インスタグラムでは恐らく目的にそぐわない。という事で、Twitterに “一縷の望み” を託して、こんな投稿でアカウントをスタートさせました。

twitter.com

 

 1年前、僕はとにかくBABYMETALのことを話し合える人と知り合いたかった。情報交換や海外遠征の様子を知りたいというのも勿論ですが、とにかく純粋にベビメタを良いと言える、良いと言ったことに対してそうだよね、と声が返ってくる場所が欲しかったのでした。アカウント開設以来、フォローさせて頂いた人・フォローして頂いた人、は自分の対応可能なキャパシティの範囲内で順調に増えたし、正直に言って、1年前には想像もしなかったくらい、このアカウントを覗く時間は、自分の日常にとって大切な時間になりました。

 

BABYMETALについての何気ないくだらない考察に、たくさんのいいねを頂いたとき。顔を真っ白に塗った人たちの狂おしいほどの笑顔が、数え切れないくらいタイムラインに流れて来たとき。素晴らしい才能を持つ人が溢れんばかりの愛をこめて描いた絵に出会い、まるで自分の気持ちを代弁してもらったように思えて嬉しくなったとき。BABYMETALの事を語りたくて始めたアカウントで、いつの間にかさくら学院の事を恥ずかしいくらいに熱く語っている自分に気づいたとき。

 

そして、Twitterを始めていなければ間違いなくこのブログを始めることもありませんでした。

 

僕がTwitterを眺めている時間は社会的には何も産み出さないかも知れませんが、それは僕が「人間らしく」ある為に、必要不可欠な時間なのだと確信しています。この時代、この場所で、僕が人間らしさを失わずにいられる大きな理由の一つは、皆さんと知り合えて皆さんの呟きを受け取り、自分の思った事を呟くこの時間のおかげだと思っています。

 

いつも、本当に本当にありがとうございます。

これからも、どうかよろしくお願い致します。

 

 

 

2016年9月のこと。 〜「迷信」の力について〜

 

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2016年9月。BABYMETALはロック・フェスティバルとライブハウスの熱狂に彩られた夏を過ごし、この9月には更にメタル・レジスタンスの軌跡において大きな出来事がありました。もちろん、9月19日と20日に東京ドームを舞台に行われた『BABYMETAL WORLD TOUR 2016 LEGEND ‐ METAL RESISTANCE ~RED NIGHT&BLACK NIGHT~』です。実は僕はBLACK NIGHTのチケット申し込みに当選していたのですが、どうしても数ヶ月後の仕事のスケジュールを見通せず、入金を諦めてチケットを放流してしまっていました。今にして思えば、どんな手段を使ってでも足を運んでおくべきでした…。

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このライブは2日間のステージで既存の楽曲ほぼ全てをセットリストの被りなく演奏するという内容で、過去最大規模の舞台装置が組まれた東京ドームには延べ11万人が集まりました。僕は上記のように現場に居ることはできなかったのですが、BABYMETALが東京ドームという日本で最大級のコンサート会場を完全に掌握していたことは映像だけでも十分伝わりましたし、宗教的と言ってもいいほどの一体感に圧倒されました。

  

さて、今回のエントリーで書きたいのはライブの内容についてではありません。RED NIGHT/BLACK NIGHTから2週間ほどたった10月の初め、RKB毎日放送の『もちこみっ』というラジオ番組で、パーソナリティの森ハヤシさんがBABYMETALの東京ドーム公演についての話をしました。さくら学院をテーマにしたエントリーでは森ハヤシさん(森先生)について触れましたが、かつてSU-METAL・YUIMETAL・MOAMETALが揃って在籍していたさくら学院の  “担任の先生” というポジションを務める脚本家さんです。表舞台に出る日本の芸能関係者の中では、BABYMETALの3人を「中元・水野・菊地」と呼べる数少ない1人でもあります。共演の田野アサミさん(女優・声優)と話した内容に、以下のようなものがありました。

「中元はほら、自転車に乘れないんですよ。自転車乗れないし漫画も読めないんですよ。なんだろうな、俺そういうのを聞いた時に、よくあるじゃん漫画とかで。悪魔と契約して力を手に入れるみたいな。中元は悪魔と契約してね、“わたしは自転車に乗る力は要りません。その代わりドームで唄わせてください” みたいなね。何かと引き換えに力を手に入れた、みたいなこと(笑)」

 放送からしばらく後には、BABYMETALの素晴らしいファンアートを作成されているHirokazu SatoさんがTwitterでこんなイラストをアップしていました。

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https://twitter.com/hiro_kazu_sato/status/782679122682089477?s=21

 

 もちろんこれはSU-METAL(かつて自分が知っていた「中元」)の歌声が東京ドームを支配していたことの感動を森ハヤシさんなりに面白おかしく表現したものですが、中元すず香とSU-METALのギャップを表す分かりやすいエピソードだと思います。実際にさくら学院時代の映像やエピソードを知ると、その牧歌的で “ド天然” な人柄から、海外のフェスや東京ドームで数万人の観客を魅了するヴォーカリストとしてのSU-METALをイメージするのは困難です。そして、この「悪魔との契約」という話で僕が思い浮かべたのはやはりロバート・ジョンスンのことでした。

 

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ロバート・ジョンソン - Wikipedia 

ロバート・ジョンスンは1930年代の所謂カントリー・ブルーズのミュージシャンの中でも最も先鋭的な音楽を奏でていました。ジョンスンに纏わるエピソードとして有名なのが「クロスロード伝説」で、これはギターの腕が拙かったジョンスンが十字路で悪魔と契約を交わし、自らの魂と引き換えに超絶的なテクニックを手に入れたというものです。遺された録音で聴ける “1人で演奏しているのが信じられない” ほどのギターの技術と唯一無二の個性的な歌声、そして27歳の若さで謎の死を遂げたという事もあり、彼のミステリアスな人生を象徴するエピソードと言えます。1990年にCBS SONYからリリースされた『THE COMPLETE RECORDINGS/ROBERT JOHNSON』の日本盤ライナーノーツに、このエピソードの核心に触れる一文があります。

ロバートが魂を売り渡したから、これほどのブルースを聞かせられるようになった、などということを示唆しているのではない。問題は、ロバートがそうした意識 -自分は悪魔に魂を売り渡した人間なのだという- を以って20代を生き、このような凄絶なブルースの数々を記録に留めたということである。

 (『THE COMPLETE RECORDINGS/ROBERT JOHNSON』ライナーノートより 日暮泰文 著)

 

 「迷信」によって自らに暗示をかけること。それが自分の中に眠っていた力を呼び覚ます、という事は音楽を演奏する場面に限らずあります。それはうまくハンドリングできればメンタルコントロールという形で大舞台で力を発揮する助けになるでしょう。過去のインタビューなどを読むと、ライブを重ね海外や大きな舞台での経験を増すごとに中元すず香とSU-METALの境界線がはっきりとしていったのではないかと思えます。ロッキング・オン・ジャパン2016年6月号の付録、『BABYMETAL完全読本』にこんな興味深い言葉があります。

心の中にモンスターがいる感じっていうか、そのモンスターを解放してあげたらどうなるんだろう?っていうちょっとした疑問があって。だからピョッて手放してみたら自由に飛び立っていったんです。そこからライブの中でしかその子は出てこないけど、その中で自然に暴れ回ってたらどんどん大きくなっていって。それが気づいたらすごく大切な存在になっていてみたいなことなのかな。(SU-METAL)

https://rockinon.com/feat/babymetal_201604

 

 俯瞰して見つつも、ステージ上で育っていったSU‐METALの存在を解放している感覚なのでしょうか。悪魔に魂を売る、とはちょっと違いますが、物理的には同一人物であるはずのSU-METALという存在を別人格として「信じる」ことによって、どんな大きな舞台でも(物怖じするどころか)楽しむことが出来るようになっていった過程を示す貴重な言葉だと思います。モンスター、という言葉が可笑しさではなくリアリティをもって響くのは、僕たちがSU‐METALの歌声の威力をよく知っているからに他なりません。

 

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本来「迷信」はあまりイメージの良い言葉ではありません。しかしながら、BABYMETALを深く知っていくと、彼らが迷信を味方につけ武器にして素晴らしいパフォーマンスをおこなっていると思うようになりました。それは言うまでもなく「キツネ様」の存在と、「お告げ」と称される告知によって導かれていくBABYMETAL自身のストーリーのことです。ネット上で閲覧できるBABYMETAL関連記事の中ではかなり古い日経トレンディネットのインタビューで、KOBAMETAL氏がヒントとなる言葉を語っています。

「よく話題になるキツネサインも、もともとは彼女たちにメロイックサインを教えていたところ、影絵でキツネを作るように遊び始めたのを面白いと思って取り入れた。なんにせよ、本人たちは与えられた楽曲に触れながら「メタルとは何か」を自分たちで考え、新しいものを作り出そうと楽しんで取り組んでくれているようだ。」

trendy.nikkeibp.co.jp

 

狐憑きに代表されるキツネに纏わる迷信は日本に古くからある民間信仰であり、稲荷信仰、稲荷下げなど修験者や行者たちのなかでもキツネは神の使いとして扱われて来ました。BABYMETALの「キツネサイン」とキツネ様のお告げの関係性はどちらが先に立っていたのかは明確には分かりませんが、どうも3人が産み出したキツネサインを基にプロデュース側がキツネ様の存在を設定したのではないかと思われます。メタル・レジスタンスと称した活動が開始されてから、<ライブ中はキツネの神が降臨する。ライブ中は所謂お喋りとしてのMCは一切ない。普段の姿は世を忍ぶ仮の姿。メタル・レジスタンスの行く先はキツネの神様のみが知る。>といったBABYMETALの根幹にある設定が揺らぐことは無く、音楽的な部分と共にBABYMETALの個性を決定づける要素となっています。

 

キツネ様の存在と、神が降臨した状態のBABYMETALという設定をした事の演者側への効果としては、3人がプライベートの自分とステージ上の自分をはっきりと分けて捉えることができたというのが最も大きいでしょう。そしてその設定は活躍する舞台が大きく、飛び回る範囲が世界へと広がっていくに連れて、3人のプライベートを守る鎧のようなものとして機能していったのではないかと僕は考えています。更に、先述の日経トレンディネットの記事の中でKOBA氏はこうも語っています。

本人たちのキャラクターを生かしたいと考えているので、制作サイドで考えたことを逐一、彼女たちに伝えることはあえてしていない。(中略)

メンバーたちの個性や自由なアイデアを大切にしたいとは、振り付け担当のMIKIKO氏ともよく話している。振り付けにしても、曲を聴いてメンバーが体を動かしながら練習している際に、「その動きが面白い」と取り入れることがある。「ヘドバンギャー!!」のサビでYUIMETALとMOAMETALがツインテールを両手で持って振り回す動きがあるが、これも彼女たちが練習でやっていた動作だ。

BABYMETALを動かしている「大人たち」が素晴らしかったのは、設定というフィクションで3人を守りつつ、多感な少女たちの自由な発想を躊躇なく取り入れることで、彼女たちが “やらされている” という感覚を覚えないようにした事だったのではないかと思います。3人にとってBABYMETALの「迷信」はしっかりと身近にあり、ステージで成功体験を重ねるたびにそれを信じられるようになって段々とSU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALになっていったのではないでしょうか。3人はキツネ様からのご神託を受け「力」を手に入れた自分を信じ、幾つもステージを乗り越えて来たのだと思います。

「YUIMETALでいるときは夢の中の自分で、仮の姿のときはいつもの自分。それを行き来しているなって思います」

(『ヘドバンVol.10』 YUIMETAL MOAMETAL1万字インタビューより)

このYUIMETALの発言は設定でも躱しでもなく、「水野由結」としての実感そのものであると考えられます。10代半ばの少女が経験するには過酷すぎるようなライブツアーも、BABYMETALとしての自分ならば乗り越えることが出来た。KOBAMETALとチームベビメタが3人のアイディアも取り入れながら作り上げた緻密な設定のおかげで、3人の少女は自分を擦り減らすことを最低限に抑えて、ここまでBABYMETALを続けてくることが出来たのだと思います。

 

 

…実はここからメタル・レジスタンス第7章(エピソード7)で起こっている事について、を一度書いたのですが、全て消してしまいました。お告げについて。情報のリリースについて。YUIMETALについて。色々と考えて書いてみたのですが、結局なんだかとても詮無いことに思えてきてしまいました。考えて、書いて、消して、残ったことを少しだけ書きます。

 

KOBAMETALとチームBABYMETALが過剰なまでに世界観を作り込み「設定」を守るのは、第一にはそれがBABYMETALの表現であるという側面。そして、中元すず香・水野由結・菊地最愛という「個」を尊重し、彼女たちのプライベートをどこまでも守る為であると、個人的には考えています。元よりBABYMETALはプライベートを切り売りするスタイルではないし、過酷なツアーの間も常に舞台上で研ぎ澄まされた表現を具現化しようとすれば、「仮の姿」の個を守ることは必要不可欠だからです。そしてアミューズはその姿勢を全面的にバックアップしているように見えます。

 

エピソード7で起きていることについては様々な人が様々な考察をしています。ツアーの開始から1週間経って少しずつ分かってきた事もある中で結局僕がいま感じているのは、これはBABYMETALのストーリーが予定通り展開されている、それに尽きるのではないかということです。現在のカタチは苦し紛れでもやっつけでもなく、長い時間をかけて検討され、周到に準備されたストーリーが実行されているのではないか。その「背後」に何があるか、それを穿つのはそれこそ詮無きことであるし、恐らく今後も語られることはないでしょう。ただ、5月8日以降、情報の出るタイミングと出処。ステージ上での表現の完成度。そして何よりも、雑音を薙ぎ払うように驚異的なパフォーマンスを続けるパフォーマーたちの姿。そこには迷いや苦悶は感じられず、確信と自信、そして表現の喜びに満ちているように思えます。

 

今までもがそうであったように、BABYMETALのストーリーがどのように広がっていくのか、僕には予想がつきません。恐らくはSU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALにも分かっていないのでしょう。ただ、それでも… そう遠くない未来に、僕たちは誰もが望む光景を目にして、心からの笑顔になれるような気がするのです。キツネ様は裏切らないような気がしているのです。…ただの一個人の勘に過ぎないんですけどね。

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